指示は少ない方が良い(言いっ放しにしない)

依頼と納品

マネージャーは、「部下への仕事の依頼とその仕事の受け取り」という行為をひたすら繰り返す。

それは自らの必要性に駆られて指示するものもあるし、上から落ちてきたものについて頼む場合もある。

どういう場合にせよ、仕事の「依頼と納品」は膨大な数になる。

ある程度優秀な部下であれば、「納期」よりも仕事を早く返してくれるので、その後の管理が不要になる。

これは精神衛生上非常に助かる。

一方で、大半の部下は「納期」ぎりぎりか、「納期」を守らない。

すると、不可避的にマネージャーの管理する仕事の範囲は広がっていく。

仕掛り仕事が多いと生産性が低下する

何かの本で読んだことがあるのだけれど、「仕掛ったままの仕事」というのは脳のCPUをずっと使い続けるので(CPU稼働率が高いままになってしまうので)、できるだけ1つ1つ片づけてその容量を空けておいた方が、脳は効率的に使えるらしい。

これは体感としてもそうで、「仕掛ったままの仕事」が多いと、注意が散漫になる。

だからといって、何度言ったって、部下の納期は早まらない。

これは5年間の経験から僕が諦めたことの1つだ。

その遅い納期を前提に仕事を進めていくしかない。

簡単に言っているけれど、これはなかなか難しい。

特にマネージャーの上司が「細かいタイプ」「頻繁に報告を求めてくるタイプ」であればあるほど、難易度は増してくる。

本来的には、部下の納期をマネージャー側で管理するために、上司からの指示を自分なりに咀嚼して、その仕事の射程を想像して、部下に降ろすことが大事なのだけれど、この指示をマシンガンのように打たれ続けると、そのうち自分で考えるのが億劫になってくる

CPU稼働率が飽和してくる。

結果として、五月雨式に部下に指示を出し続けることになる。

部下側からすると、五月雨式という言葉の通り、ずっと雨が降っているような状態が続く。

当然、部下側のCPU稼働率も上がったままになる。

こうなると、確実にチームの生産性は落ちてしまう。

指示を「出す」方が、「確認する」よりも簡単だし、有能に見える

では、どのようにすればいいのか?

経験的には、「指示」と「納品の管理・確認」を比べた場合、「納品の管理・確認」の方が負担感が大きい。

だから、比重として、「指示」が増えて、「納品の管理・確認」が減る。

累積的に「指示」が積み重ねっていく。

これが俗に言う「言いっ放し」の状態だ。

これを防ぐためには「納品の管理・確認」を増やすか、「指示」を減らすかしかない。

2つを比べた場合、簡単なのは「指示」を減らすことだ。

重要なことなのでもう1回言う。

「指示」を減らす方が簡単だ。

多くのマネージャーはこれがわかっていない。

なぜなら、「指示」をする(増やす)と、仕事をしている「風」にできるからだ。

もっと言うと、増やした「指示」を更に「管理」すると、できるマネージャーっぽくなるからだ。

もう少し詳しく説明する。

マイクロマネジメントはマネージャーの主業務ではない

個人的な信条になってしまうかもしれないが、僕は「指示」はできるだけ少ない方が生産性は向上すると考えている。

それは先ほどの例えを引用すると、CPU稼働率が下がって、脳を自由に使える領域が増えるからだ。

そこにクリエイティビティが生まれる。

「あそび」が生まれる。

これがないと、チームは向上していかない。

でも、「指示の山」があると、それに対処することが仕事になってしまう。

そしてマネージャーも、それを「管理する」ことが仕事になってしまう。

結果として、マネージャーは「マイクロマネージャー」に進化(退化?)する。

この弊害についてはここで話す必要もないだろう。(もし必要なら「マイクロマネジメントは有害だ」を参照)

このマイクロマネジメントをマネージャーの主業務だと勘違いしているマネージャーが多すぎる。

マネジメントの本分は管理することではなく、チームを向上させることだ

「いやでも、部下は納期を守れないんですよ? そうするしかないじゃないですか?」

その気持ちはとてもよくわかる。

だからこそ、「指示」を減らすしかないのだ。

部下は「納期」を守らない。守れない。

これがデフォルトだ。

だから、「指示」を減らすしかない。

本当に必要最小限だけ「指示」をするようにする。

結果として、「管理」負担が減少することになる。

もっと有用なことにマネージャーの体力を使えるようになる。

単純に管理能力が低いだけなのかもしれないけれど、僕は一定以上の「指示」とそれに対応する「納期」を保持することができない。

だからこのスタイルで仕事をするしかない。

でもこれができるようになると、少なくとも「オレはこう指示したじゃないか!」「何でできないんだ!」というような怒りが湧いてくることはなくなる。

そして上司から詰め寄られた時も、部下の梯子を外すことはなくなる。

「指示」を絞ることは確かに勇気がいる行為だ。

それはそれ以外を捨てる行為と同義だからだ。

でもそれができなければマネージャーはマネジメントに集中することはできない。

マネジメントの本分は「管理すること」ではない。

「チームを向上させること」だ。

それを間違えてはいけない。

それではまた。

いい仕事をしましょう。


あとがき

「指示する」「管理する」というのは自尊心をくすぐる行為です。

手触り感の薄いマネジメント業務において、手っ取り早く「仕事をしている感じ」を出すためには、この「指示と管理のサイクル」をできるだけ多くする方向に傾きがちです。

その誘惑はとても強い。

しかしながら、この「指示と管理」は行き過ぎると、「仕事の為の仕事」が膨大に膨れ上がってしまいます。

このような「上しか見ていないマネージャー」はチームの生産性を向上させることはできません。

そして「もっと指示を出し、もっと管理をする」という悪循環に陥っていきます。

これを自覚できるだけでも雑多なマネージャー群から一歩抜け出すことができます。

勇気をもって指示を減らしましょう。