贔屓をしない

もっと褒めて欲しいという欲望の矛先

人というのは他人から評価されたいのだな、ということをマネージャーをやっているとよく感じる。

他人からの評価をできるだけ自分に集めたい、あるカテゴリー内での相対評価を高めたい、という志向性があるのだな、とよく思う。

これは一言で言えば承認欲求なのだろうけれど、チーム内でのパワーバランスというかマウンティングというか、そういうものも関係しているから面倒くさい。

僕個人としては、他人から評価されるのに越したことはないけれど、評価されなくても構わない、というような価値観で仕事をしてきたので、このような「もっと私を見て」というような圧力にたじろいでしまうことが多い。

でもマネージャーという立場上、チームメンバーを評価することもあるわけで、彼ら彼女らの「注目して欲しい」という想いの矛先は当然自分にも向いてくる。

もちろんそれぞれのメンバーによって個人差はあるし、性差もあると思う。

そしてさらに厄介なことに、こちら側にもメンバーに対して「合う・合わない」があるので、この複雑な「想いの交雑」のようなものにクラクラしてしまうことになる。

愛憎は表裏一体

マネージャーも人間なので慕われれば嬉しいし、当然可愛がりたくなる。

一方、距離感の掴めないメンバーに対してはちょっとよそよそしくなってしまいがちだ。

ただ僕の経験上、これはできるだけ避けた方が良い。

これが今回のテーマだ。

恋愛でも同じように、人の想いは反転すること、増幅して反転することが時として起こる

ある瞬間まではとても好意的であった部下が、急に敵対心剥き出しになってしまうことなんてこともない訳ではない。

そういう怨憎のようなものは贔屓しているメンバーがいると引き起こされがちだ。

いや、正しく言うと、贔屓していると「思っている」メンバーがいると引き起こされがちだ。

例えその贔屓というのが勘違いであっても、言い掛かりであっても、これはそうなる。

贔屓は奇形的に拡散する

つくづくマネージャー業は面倒くさい。

こちら側には贔屓しているなんて意識なんて露ほどもなくても、それを誰かが「贔屓だ」と感じると、この怨念スイッチが起動されてしまう。

そしてマネージャーの一挙手一投足がすべて悪い方向に解釈されてしまう。

自分の知らないまま、噂話に尾ひれがついて、拡散していく。

さもそれが既成事実であるかのように全然違う部署の人が認識していたりすることがある。

伝言ゲームで元々のワードからどんどん変化していくように、最終的には「どういう経緯を辿ったらこんな奇形になるのか」という訳が分からない代物になっている。

世間の人はこういう噂話が大好きだ。

気付けば全然関係ない人が焚きつけていたりもするのだけれど、それに対して弁明する機会は与えられない。

「そんなつもりじゃなかった」という言い訳も通用しない。

ただ行方を見守ることしかできない。

誰に対しても公平に接するという評判を作る

これは異性間でも起こるし、同性間でも起こる。

本当に人間というのは厄介な生き物だと思う。

多くの人は他人から注目されたいし、愛されたいのだ、ということを折に触れて感じることになる。

そんな素振りを見せていなくても、この歓心を買いたいという欲求は心の中にあるし、それは時に抑制が効かない。

暴れだしてしまうと抑えられなくなってしまうので、マネージャーはできるだけこれを自分の手の届く範囲でコントロールしておくことが肝要だ。

100%封じ込めることは不可能だけれど、ある程度このリスクを減じることはできる。

それは贔屓をしない、贔屓をしているように見せない、ということに尽きる。

これはバランスがとても難しくて、あまりにもメンバーに対して距離を置きすぎると、それはそれでチームマネジメントが困難になるので、その匙加減は調整が必要だ。

ただ言えるのは、力の強いものに阿ったり、態度を変えたり、媚びたり諂ったりしない、誰に対してもフェアに接する人、そういう評判を作っておくことが大事だということだ。

等距離のマネジメント

社内には色々なタイプの人がいるし、色々な思いが渦巻いている。

そういう情念の束のようなものに取り込まれないようにしておくことが部下からの信頼に繋がる。

ある種のドライさというか、淡白さというか、そういうものがマネージャーには必要だと思う。

誰に対しても分け隔てなく接することは大事だけれど、線を引くという行為も一方で大事だ。

お局様の軍門に下ったり、若い女の子にデレデレしたり、気の合う奴とばかり飲みに行ったり、そういう日々の行動を本当に部下はよく見ている。

そしてそれを自分と対比して、面白くなく思うことになる。

その根底にあるのは「私にも関心を向けて欲しい」「愛して欲しい」という強い想いだ。

それを上手にコントロールしながらマネジメントを行っていく。

時にその嫉妬心を利用したりしながら、ある種狡猾にやっていくことすら求められる。

「みんな平等に関心を持っている」なんてことは綺麗ごとに過ぎないのだけれど、そのように思われるようにきちんと演じる。

書いていて嫌になってくるが、マネジメントにはこういう側面が間違いなくあるし、これに鈍感だと足元をすくわれることになる。

嫉妬心に気を付けながら、仕事をしていくしかない。

それではまた。

いい仕事をしましょう。


あとがき

マネージャーの仕事の大半は「本業」ではなく「人間関係」であると思います。

これがある程度できていれば、「本業」についても自然と結果は出てくるものだ、ということを僕は思っているのですが、どうやら共感者は少ないようです。

そしてその実現の為に、職場環境をできるだけフラットに保つ、ということを意識的に行っています。

それでも嫉妬心はどこからか必ず巻き起こってきます。

つくづく人間は面倒くさい。

日々間合いを計りながらマネジメントを行っていきましょう。