忙しすぎる課長の皆様へ
忙しく働かなければ、仕事が回らないし、業績も落ちる?
先日、他社の課長さん(Aさん)から「仕事が忙しすぎる。ウエノさんは毎日暇だって言うけれど、実際どうやってやってるの?」というご相談を頂いた。
僕はいつも通り「やらないことを決めるしかない」「部下に仕事を任せるしかない」ということを話したのだけれど、いまいちピンと来ていない様子で、「でもそうしたら課の仕事が回らないし、業績も落ちちゃうんだけど…」と仰っていた。
時間の関係もあってそこで話は終わってしまった。
ただ、僕の中でも何となく引っかかっていたことなので、その続きをこの場を借りて書いてみようと思う(Aさんが読んでくださるかはわからないが)。
それでは始めていこう。
課の数字=課長の数字
Aさんは営業の課長で、部下は5人くらい、営業成績の殆どを自らが稼いでいる典型的なプレイングマネージャーである。
もちろんその他の「管理」と呼ばれるような仕事もやっておられる。
一番の悩みは「部下が成長しない」ことで、だからこそ自分が駆けずり回って仕事をしている(せざるを得ない)、とのことである。
Aさんの頑張りもあって、この数年間はチームの営業成績もトップクラスであり、会社からも一定の評価もされている。
ただ、自身の仕事が終わるのは遅く(深夜になることもよくあるそうだ)、疲労感を感じることが多い。
そんな時にたまたま話す機会があって、冒頭のような相談を僕に頂いた訳だ。
成果主義的・一匹狼的社風
前提として、僕とAさんは勤めている会社が違うので、社内文化というか、マネージャーに対する考え方・価値観みたいなものがそもそも違う。
だからこれから僕が言うことが的外れである可能性は大いにある。
Aさんの会社は、僕の勤務している会社よりも歩合給の度合いが高いようで、どちらかというとメンバーも皆一匹狼的に仕事をしており、部下育成にもそんなに重きが置かれていない、という印象である。
成果主義的な要素が強い社風に合うものは長く勤められるけれど、そうでない者はすぐに辞めてしまう、とのことである。
さて、Aさんはどうすべきだろうか?
自分が不可欠である、という考えは信仰に過ぎない
まず僕が思うのは、これはある種の「信仰」というか、「思い込み」というか、そういう類の考えに囚われてしまっているのではないか、ということである。
そしてこの「思い込み」は、多くのマネージャーにとって普遍的なもの(あるある)であると僕は思っている。
ここで言う「思い込み」というのは、「自分がいなくては仕事が回らない」「自分が頑張らなくてはチームの業績が上がらない」というものである。
多くの「マネージャー=プレイングマネージャー」である人達にとって、これは洗脳とも呼ぶべき信念であるし、そう簡単に考えを変えることができないのも無理はない(かつての僕もそうだった)。
そして実際に「仕事が回らない事態」が生じてしまう可能性もある、とも思う。
でも、思い切ってやめてみるしかないのだ。
オーバーワークはやっぱり異常
Aさんもそうだが、この種のマネージャーの多くは責任感が強く、仕事に対して一生懸命で、前向きにマネジメント業務に取り組もうとしている。
でも、一方で全てに全力を出そうとしてしまうあまり、メンタルが不安定になってしまったり、時に部下に対して強く当たってしまったりする傾向がある。
そして、俗に言う「いっぱいいっぱい」になってしまう。
CPU使用率が常に100%に近い状態(100%越え?)のパソコンはやっぱり異常である。
メモリがいっぱいでは動作が鈍くなる、そんなことは当たり前の話である。
それが自分のこととなると途端にわからなくなるようである。
スーパーコンピューターと分散コンピューティング
1台のパソコンにできることには限界がある(いかに優秀なパソコンであっても)。
もちろんスパコンであれば話は違うのかもしれないけれど、僕たちのようなサラリーマンレベルであれば、1台のパソコンの性能を上げるよりも、分散コンピューティング的に仕事をした方が能率は上がる、と僕は思っている。
このイメージが絶対的に重要である。
1台1台のパソコンの性能はたかが知れている。
そして、その1台1台のパソコンの性能「差」だって大したものではない。
でも、それを組み合わせると、同時並行的に使うと、処理能力は大幅に向上する。
これがたぶん多くの人にとっては「体感的」にはわかっていないのだろう。
部下を「使う」ために、「適切なタスク」を割り当てる
これは「部下を育成する」という概念とは少し異なるものである。
部下が成長すればラッキーではあるが、それを期待するのではなく、あくまでも「1端末」として「使う」ということが重要なのである。
そして上手に「使う」ためには、「適切なタスク」を割り当てるしかないのだ。
そういう意味ではマネージャーは中央統御装置的なものになるのかもしれない。
大きい課の目標はマネージャー1人では埋められない
自分でタスクをこなすのも時には必要なことであるが、大事な仕事は全体に流れる「仕事量のコントロール」と「適切な資源配分」(余力管理)である。
これができなければ、部下が増えるにつれて仕事が「本当に」回らなくなる。
当たり前の話であるが、部下が少なければ、課長がチームの人員に占める比率は高まる(課長を含めて5人の課であれば、課長の割合は20%)。
でもチームが大きくなれば、そうも言っていられない。
目標も大きくなり、それはマネージャー個人で埋められるものでは到底なくなる。
これを多くのプレイングマネージャーはわかっていないのだ。
各個撃破よりも勝利を
僕だって偉そうなことを言えた義理ではない。
でも、「手を抜く」のではなく「マネジメントする」方に力を入れることがマネージャーには必要なことなのである。
部分ではなく全体を見る。
各個撃破すれば戦争に勝てる訳ではないのだ。
それではまた。
いい仕事をしましょう。
あとがき
自分でやるしかない、というのはある種の幻想だと僕は思っています。
もちろんここには簡単に割り切れない様々な事情が幾重にも積み重なっていることはわかっています(というか、僕だってそのジレンマとずっと闘ってきたわけです)。
でもよく考えて頂きたいのですが、個人事業主と法人では、マネジメントの範囲が全然違います。
個人事業主は自分でやる割合が大きく、法人はそれが少ない。
ただ、大きく成果が出るのは後者です(正しくは後者であることが殆どです)。
「やる」のと「使う」のでは、頭を使う部位が異なります。
気持ちはよくわかるのですが、「使う」スキルを早く身に付けた方が、マネジメントという仕事は格段に楽しくなります。
思い込みを捨てて、一回騙されたと思ってやってみて下さい。
必ず景色が変わってきます。
共に頑張っていきましょう。