本気を出すのはやめよう(6割で十分)
予定通りに物事が進んでいくことはほとんどない
マネージャーになって驚いたのは、全速力で走ると誰もついてこないということだ。
管理職になる前の仕事のようなペースで色々な物事が進んでいくものと思っていた僕は、この部分に戸惑いを感じた。
例えば報告物。
期限を設定して、「○○日までに提出してね」と言っても、期限までに提出されるのは7割くらい。残りの3割についても、遅れることに対する報告すらなかったりする。
おいおい、社会人として大丈夫か、と腹を立てる。
例えば営業の準備。
お客さんのところに訪問する何日か前に、「たぶんこういう方向に話が進むと思うから、○○の資料も用意しておいて」と言っても、当日になって全然できていないとか。
じゃあ、今まで何をしていたんだ、と腹を立てる。
例えば顧客への返答期限。
お客さんに頼まれていたものについて、期限前に出来上がることは殆どない。前日くらいになってようやく急いで取り掛かる。そして出来栄えもイマイチ。
だからダメなんだよ、と腹を立てる。
目線を下げても全然できないから余計にイライラする
上手く例えられていないかもしれないけれど、あらゆることが自分が想定しているペースからだいぶ遅れる。
そして折角の機会がどんどんと失われていく。
更に悪いことに、当人はそれに全然気づいていない。
イライラばかりが募る。
スピード感と完成度が低いということを認識したので、期限をもう少し前にして、余裕を持った運営にしてみる。
これなら出来るだろう、と思う。
でも出来栄えはそんなに変わらない。
余計にイライラすることになる。
こうなると、あらゆることにイライラするようになる。
マネージャー失格だ。
海外リーグとJリーグ
自分で満足いくように仕事がしたい、何でこんな奴らの面倒を見なくちゃいけないんだ、結局お客さんに怒られるのはオレだし、やってられない。
そんなことをずっと思っていた。
でもある時課の中で一番年下の部下から、「みんな課長みたいにできる訳じゃないんですよ。課長は第一線でやってきたかもしれないですけど、ここではそれは無理です」と言われた。
続けて、「課長のやり方は、サッカーで言うなら海外リーグ仕様です。ここはJリーグ。もしくは下部リーグです」
なるほど、と思った。
薄々気づいてはいたけれど、部下もやっぱりそう思っていたのか。
彼らは彼らなりに一生懸命仕事をしていたのだ。
別にやる気がなかったり、怠惰な訳ではなく、単純に能力が追い付かないのだ。
それを無理に求めても不可能だ。
でも、それって言い訳なんじゃないの、と思わなかったわけではないけれど、もう少しペースを落としてみることにした。
(この辺が「戦術にチームを合わせるか? チームに戦術を合わせるか?」という議論に繋がってくる)
ギリギリで勝つためのつまらないけれど現実的な戦術
僕は理想のチームを作って、みんながそのやり方をすれば、結果が出ると思っていた。
そしてその理想に至らない選手は努力が足りない、と思っていた。
なんでできないんだ、と勝手にイライラしていた。
全く建設的でないやり方だ。
そこから逆のアプローチを取るようにした。
「みんなの能力や特徴や長所を活かすためにはどういう戦術がいいのだろうか?」と考えるようになった。
それはある種の諦めではあるし、何となく白旗を上げているような感じがしなかったわけではない。
手を抜いているような感じがなかったわけではない。
「そこを理想に近づけるのがマネージャーの仕事だろ!」と言われたら「確かにその通りだよな…」と思う。
でも僕は現実的なやり方を取ることにした。
地に足のついた戦術で戦うことにした。
妥協、という人もいるだろう。
それは間違っていない。
でもマネージャーは結果を出さなくちゃいけないのだ。
やり方なんて構っていられない。
綺麗な勝ち方なんて考えていられない。
徹底的に引いて守って、カウンターで1点、それでいい。
もしくは引き分けで十分。
そういうファンからすればつまらない戦い方を選択した。
派手な勝ち方は諦めることにした。
スピードを落とし、視線を上げるとゲームの流れが見えてくる
体感的には自分の能力の6割くらいで仕事をすると丁度いい。
スピードも完成度も。
ある種見下しているような書き方に見えるかもしれないけれど、こういう風に考えることでだいぶ仕事がしやすくなった。
イライラすることが劇的に減った。
スピードを落とすと、周りが良く見えるようになる。
時の流れがゆっくりになると、「ああ、あいつはあんな風に頑張っているのか」とか「ああ、ここで躓いているのか」ということが視界に入ってくる。
そこに残りの能力の4割を注ぐ。
だから、適切に表現するなら、自分だけで仕事をするという呪縛(幻想)から解き放たれて、チームで仕事をする、という感じに近いかもしれない。
地味な仕事や雑用も含めて、彼らが働きやすいように常にいいパスを出し続ける。
攻められている時には誰よりも全力でディフェンスする。
時々昔のストライカーとしての血が騒ぐこともあるけれど、前に出ても誰も付いてこないので、その部分は諦める。
目立つことができなくなることを受け入れる。
そうやって仕事を続けていると、部下達がだんだんと躍動しだす。
予想外のプレーが出たりする。
「まぐれですよ」と彼らは言う。
でも少しだけ誇らしげだ。
僕はそれを後ろから見ている。
遠くで歓声を送る。
そして次の敵の攻撃にいち早く備える。
誰もマネージャーの動きの質など見ていない。
そんなもの評価の対象ですらない。
でも、チームメイトはわかっているし、目の肥えた玄人にはわかってもらえる。
損な役回りだと思う。
でもそれを積極的に引き受けることでチームは活性化していく。
スピードを落として、視線を上げる。
試合の流れを読む。
それがマネージャーの仕事のやり方だ。
それではまた。
いい仕事をしましょう。
編集後記
「振り返っても誰もいない」ということに気付くのに僕は結構時間がかかりました。
プレーヤーとしての仕事のやり方と、マネージャーとしての仕事のやり方は大きく異なります。
「そんなの当たり前じゃないか」というのは今になって思うことで、1人で勝手にできないメンバーに対してイライラして拗ねて拗らせていた訳です。
だからといって、菩薩のような広い心を持て、というのは不可能なので、そのプレースピードの中でできることは何か、チームに貢献できることは何なのか、ということを考えるのが重要だと僕は考えています。
どんな人にも良い所はあります。
それを何とか活用してチームとして戦えるようにしましょう。