機が熟するのを見極める
同じ言葉でも広がりが違う
物事にはタイミングがある。
この言葉だけを聞くと、「まあ、そうだよなあ」と思われる人も多いと思う。
そうなのだ。
マネジメントにおいてもタイミングというのはとても重要である。
同じ言葉を発するにしても、機が熟している状態で話すのとそうでない状態で話すのとでは、その後の展開(広がり)の違いは明白である。
でも、これを多くの人は見極められていないように感じている。
もちろん、機が熟したかどうかの判断なんてものは、言語化するのが非常に難しいものであるし、「感覚じゃね?」と思う部分はあるのだけれど、今日はそれをどうにかして言葉に変換してみようという試みである。
それでは始めていこう。
トリセツを作ろうかと思ったくらい
僕はマネジメントという仕事を長くやる中で、自分自身を部下に知ってもらうことが非常に大事なことである、ということに気づいてきた。
もちろん、ぼんやりとは「そういうものなのだろうなあ…」とは思っていたのだけれど、優先順位が高いというか、そこがクリアされれば後はどうとでもなるというか、そんな感覚を持つくらいの状態に今はなっている。
一時期は、「ウエノのトリセツ(取扱説明書)」を作って、部下に配ろうかと本気で考えたくらい、自分自身の思考や物事へ反応の仕方などを、結構な深さで部下に理解してもらうことは重要だと僕は思っている。
それを僕なりの言葉に直すなら、「ベースの信頼感」ということになる。
これがあると、マネジメントという仕事は格段に楽になる。
そして、今日のテーマでもある「機が熟する」タイミングも見極められるようになる。
如何にして自分の言葉の伝導率を保つか
マネジメントという仕事が難しいなと思うのは、自分の想いがそのままの純度で部下に伝わらない(伝わりづらい)ということである。
それも1対1の関係性ならいざ知らず、1対複数の関係性である。
同じ言葉、同じトーン、同じ表現方法であったとしても、受け取り方はそれぞれ違う。
そこからの解釈や展開の仕方もどんどん変わっていく。
伝言ゲームのように、当初言ったものが不思議な世界に迷い込んだみたいに、奇妙な言葉に変化して伝わってしまうこともある。
これを如何に補正するか、精度高く部下に自分の考えを伝えるか(伝導率みたいなもの)が、マネジメントという仕事においては大事である。
伝導率が高いと、言葉の強度を上げることができる
そしてその「伝導率」を高い水準に保つ方法の1つが、ベースの信頼感である。
これが底流にあれば、マネージャーの言葉が上滑る確率は激減する。
仮にちょっと的外れなことを言ってしまったとしても、事後のリカバリーによって復旧可能となる。
それくらい重要な要素である。
そしてそれを高い状態に保ち続けると、チームへ伝える言葉の強度を上げることができるようになる。
今までであれば厳しいと思われるような言動であっても、ベースの信頼感があり、言葉の伝導率が高い状態が保たれていると、それがストンと伝わるようになる。
余計な勘繰りや、穿った見方がなく、真意が真意として伝わるようになる。
これが僕が言う、「機が熟した」タイミングである。
手加減のない言葉
マネージャーの言葉が、マネージャーの言葉そのままの意味で伝わる状態。
このタイミングで、本当に自分が言いたかったことややりたかったことを発信する。
逆に言えば、それまでの期間においては、本当の意味での自分の言葉を言うのではなく、やや「手加減した」状態での言葉を使う、ということになる。
この使い分け、というか待期期間、という考え方ができるようになると、マネジメントという仕事の内容は大きく変わってくる。
理想的な状態は長くは続かないけれど
もちろん、このような(理想的な)状態というのは、永続する訳ではない。
日々のマネージャーと部下との関係性や、外部環境の変化、メンバーの異動等によって、変動するものである。
ただ、ベースにある信頼感が大きく損なわれなければ、最高とまでは言えなくても、高い水準に保つことはできる。
そして、またその理想的な状態が訪れるタイミングを待つのだ。
チームの体温を高い状態に保つ
僕が普段から言っている「チームの体温を高い状態に保つ」というのは、ここでも関係してくる。
成果というのは水物ではあるけれど、チームが高い体温を保つことができていれば、成果が出る確率が高い状態が維持される。
マネージャーにできるのはそこまでのこと(勝てる確率を上げる作業)であり、それ以上のことは運というか、ある種コントロールできない領域になっていく。
だから、その状態をできるだけ長く維持する必要があるのだ。
そしてその高温状態を維持しながら、「ここぞ」というタイミングで適切な言葉を発し、自分が本当にやりたかった戦略を発動させる。
これが僕がいま考えるマネジメントの奥義である。
蓋然性を高める
勝つか負けるか、というのは、究極的に言えば、どうでもよいことである。
成果、成果、と僕は常々言ってはいるものの、それは出る時は出るし、出ない時は出ないものでもある。
でもだからと言って、運を天に任せるというのも違う。
蓋然性を高める作業、それこそがマネジメントなのだ。
それではまた。
いい仕事をしましょう。
あとがき
強い言葉を使っても、言葉の真意が捻じ曲げられることなく、高い純度で伝わる状態。
それが僕が考える機が熟したタイミングです。
これをいかに長い期間保てるかが、マネジメントの勝敗を分けます。
適切に見極めながら、言葉を使っていきましょう。