言葉はタダだ(だが、安売りはするな)
言葉は使い過ぎると価値が下がる
今日の話はタイトルの通りで、言葉はタダなのでできるだけ使った方が良いけれど、あまり使い過ぎると言葉が安くなるのでNG、ということである。
以上。
となると流石にあんまりなので、もう少し丁寧に説明すると、「部下をとにかく褒めなさい」とか「たくさん感謝をしなさい」というような言説には留保条件というか注意事項を付けておいた方が良い、ということになるかもしれない。
言葉は通貨やモノの値段と同じで、市場に溢れすぎるとその価値が下がってしまう。
一方、使わないと(ただ持っておくだけでは)意味がない。
だから適時適切に使う必要がある。
今日はそんな話である。
マネージャーが言葉を使う場面は多い
「部下を褒めるのが難しい」
「上手に叱れない」
そんな相談をマネージャーから受けることがある。
確かに褒めたり叱ったりすることは難しい。
もっと言うと、モチベーションを上げたり、キャリアの方向性を示したり、努力を認めたり、その他諸々、様々な場面でマネージャーは言葉を使うことになる訳で、その度に自分の発する言葉の重要性が問われることになる。
言葉の価値は変動する
「いやいや、それはちょっと言い過ぎ(考え過ぎ)では?」
そう思われる方もいるかもしれない。
確かに、いちいち自分の発する言葉を吟味していたら仕事にならないのは事実である。
かく言う僕も、そこまで選びに選んで言葉を使っている訳ではない。
でも、頭の片隅には留めておいた方が良いのではないか、とは思っているし、実際の運用として気を付けていることも事実である。
というのも、マネジメントというのは(主に)言葉を使う仕事であるから。
そしてその価値は変動をするものであるから。
他人に興味がないし、基準も厳しい
僕はあまり褒めたり叱ったりしないタイプのマネージャーだと(自分では)思っている。
それは意識的にそうしている部分もあるけれど、元々人にあまり興味がないこともきっと関係している。
もっと言うと、他人に対する基準が厳しいということが大きく関係している。
ちょっとやそっとでは褒める気にならないし、叱るとしても「別に改善しようがしまいが、コイツの人生オレに関係ないしなあ…」と思ってしまう部分があって、そこまで感情が動かないのが僕という人間である。
言葉数が少ないことそれ自体は問題ではない
そんな僕であるが、やっぱりマネージャーなので、「仕事としてきちんと褒めたり叱ったりした方が良いのでは?」と思うことはある。
でも、同時に何年もマネージャーをやってきて思うのは「無理をしてはいけない」ということである。
本当に「褒めたい」とか「叱りたい」とか思っているなら別であるが、1ミリもそう思っていないものを無理やり褒めたり叱ったりすることは僕にはできないし、たぶんそれをすることで、僕への信頼度というのは大きく下がってしまうような気もしている。
このような自分の考えを良いように捉えるなら、「言葉を絞ることはその価値を上げることに繋がり、タイミングさえ間違えなければ、その頻度が少ないことは問題にならない」ということになるのかもしれない。
そしてそのような考え方というのは、僕のキャラクターに合っているし、僕のマネジメントスタイルにも合っている。
そんな風に思うのである。
言葉を出し惜しむ
言葉の希少性のようなもの。
(僕が発する)言葉に飢えをもたらすこと。
嫌らしい言い方にはなるが、ある種の「出し惜しみ」というのは、マネジメントにおいて有効に機能する場合がある。
それは同時に、それを使う場面をより際立たせることになる。
だから、自分の心が本当に動いた時にそれを使うべきなのだと僕は思っている。
もちろん、上記したように薄情な人間である僕がそこまで心を揺さぶられることはそんなに多くはない。
でも、長年仕事をしていると、時々はそのようなことが起きる。
その際に、価値が高まった言葉を使うべきなのだ。
言うべき時に言わないのもまた問題
そして、繰り返しにはなるが、使うべき時に使うことも重要なのである。
ここで「言わなくても伝わるはずだ」とは思ってはいけない。
恥ずかしくても、照れくさくても、言うべきなのである。
そこに恥や照れが混じっていても全然構わない。
むしろ混じっていていいのである。
それができるようになると、言葉が信憑性を帯びるようになる。
そして言葉に信憑性が帯びるようになれば、マネージャーに対する信頼度が格段に高まることになる。
あとは言わずもがなである。
言葉に力を
言葉は言うだけタダである。
いくら言ったところで、大した労力にはならない。
でも、使いどころを考えないと、言葉の価値は減価してしまう。
「とりあえず何でも褒めときゃ部下は喜ぶんだろ?」というような、僕からすれば安易かつ横暴な考え方では、言葉に芯を食わせることはできない。
当然ながら、言葉が芯を食わないと、成果も凡庸なものになってしまう。
だから、言葉の価値の維持に注意を払っておくべきなのだ。
安売り、叩き売りされた言葉が、あなたの口からもし出ているとするなら、チームはその程度のものに留まってしまっているはずだ。
言葉に力を。
それではまた。
いい仕事をしましょう。
あとがき
言葉を出し惜しむのは、的外れなことを言わないという効用もあります。
僕がマネジメントという仕事をしてきて思うのは、人間というのは本当に複雑で面倒くさい生き物であるということです。
そして、ある行動の真意というのは、その行動している瞬間で測れるとは限らない、ということです。
「泳がせておく」ことは何も悪いことではない(「すぐ対処する」ことが良いこととは限らない)。
この意味がわかった時に、僕はマネージャーとして1段上に来ることができたような感覚があります。
そして、泳がせたあと、然るべきタイミングで、然るべき言葉を言うこと。
それができれば、マネジメントという仕事を少なくとも続けることは可能です。
言葉の価値を維持していきましょう。