上からの「うまくやって」にどう対応するか?

良き所に着地させる

マネージャーは時に板挟みになる。

明らかに納得性のない指示が上司から降りてきた時、当然ながら部下は反発する。

それを宥めながら、すかしながら、「いい感じ」で運営していくのがマネージャーの中間管理職としての能力だ、といっても過言ではない。

上からの意向を無視するわけにもいかないし、部下の心情もわかる。

その時に「どのくらいの匙加減で」実行していくかがマネージャーの腕の見せ所だ。

外資系企業であれば上からの命令は明確になっているのかもしれないが、日本企業でこれが曖昧なものであることが多い。

それは「うまくやって」という言葉に集約される。

近頃色々と言われる忖度というのもここには含まれている。

ものすごく単純に翻訳すると、「何か問題が起こってもその責任はオレは取らないけど、かといって業績が上がらなかったらただじゃおかないからな」という意味だ。

その場の状況と空気感と温度と湿度と現状認識と将来的な方向性とそういったものを全て足しあげて、良き所に着地させる、それがマネージャーの仕事だ。

書いていて本当にうんざりするけれど、本当にそうなのだ。

上司と完成イメージを共有しておく

5年も中間管理職をやっていると、この辺の嗅覚は本当に鋭くなる。

それをそつなくこなすことができるようになると、上司もある程度仕事を任せてくれるようになるので、だいぶやりやすくなる。

ではどのように?

1番大事なことは、自分の上司のイメージと自分のイメージを擦り合わせておくことだ。

もちろん職務要件規定書を交わすというような未来がいつか来るかもしれないけれど、当分はそんなことはなさそうなので、あくまで口頭ベースで、「どのくらいのことを考えているか」「実現可能性はどのくらいと思っているのか」ということを共有しておく。

大抵の場合、この上司もはっきりとしたイメージを持っていないまま言っているので、ここである程度の輪郭を決めておく(言質を取っておく)ことが大事だ。

もちろん最終的にその上司の言う通りにやって失敗した場合には、全てマネージャーの責任になるのは承知の上だ(「梯子を外される」というのは僕からしたらデフォルトだ)。

両者の間に空想上の完成イメージを浮かべておく、という事実が大事だ。

その上司のタイプや性格や腹黒さや、そういったものによってこの種の行為の重要度は変わってくるけれど、この「下ごしらえ」をするかしないかではその後の展開が変わってくるからやっておくにこしたことはない。

もしもそいつが「梯子外しマン」であれば、文面で承認を取っておく。エビデンスを残しておく(もちろんそれでも責任転嫁はされるんですけどね…)。

そうやってある程度守りを固めながら、現実的なゴールと妄想的なゴールを分けて説明しておく。

ここまでやっても大体が「全然わかっていない」から、できればその上司の上司まで巻き込んでオーソライズを取っておく。

これを根回しという(マネージャー初級試験に必ず出るので、よく覚えておくように)。

部下に腹落ちさせる

こうやってある程度地面を固めておきながら、今度は部下にどのように説明するかを考える。

上から降りてきた命令をそのまま純度100%で下に降ろすというのは愚の骨頂だ。

それならばマネージャーなんていらないからだ。

エッセンスだけ抽出して、上司の意向も尊重しながら、でも部下もある程度腹落ちしているような形で提出する。

感覚的には60%くらいに薄める感じだ。

ギリギリ無視していないというくらいのイメージだ。

これも普段から部下の温度感を敏感に感じているかどうかによってその難易度が変わってくる。

僕は自分が営業出身なので、彼らの気持ちが良くわかる方だと思う。

本当に無理難題、現場無視という指示は腐るほどある。

その時に自分の上司がただのイエスマンである時ほど無力感を感じることはない。

なので、マネージャーとしてはそれを薄めてあげる、部下を守ってあげることが大事だ。

だからと言って、組織の意向を完全に無視するという愚行は犯してはならない。

それが英雄的な行為であるという変なヒロイズムはやめた方が良い。

オン・ザ・エッジ

この辺の「いい感じ」「いい塩梅」というのは本当に肌感覚で身に付けていくしかない。

上司から嫌われることもなく、部下からの信頼も得ながら、成果を出すために仕事を遂行していく、この大事さと困難さがわかる人と酒を酌み交わしたいと思う。

変に媚びへつらうのではなく、かといって疎んじられるわけでもない、程よい距離感と温度感。

任せておけば「何とかしてくれるヤツ」だという安心感。

それがマネージャーには必要だ。

空想を地面に下ろして、現実的な戦術に置き換えて、組織の意向を適切に叶えていく。

だからといって魂までは売らない。

タイトロープ・ダンシング。

それではまた。

いい仕事をしましょう。

あとがき

「頭の良い人」は往々にしてビジョンを具体化することが不得手であるように感じます。

実際に実行するのは僕を含めた現場の「頭があまり良くない人達」であるにも関わらず、そこに伝わるメッセージは空疎であり、中身のないものが多いのには本当にうんざりしています。

「それをやるのがマネージャーの仕事だろ!」と言われればぐうの音も出ないのですが、それは存外難しいのに、簡単にできると思っている人が多すぎる。

そんな本部と現場の板挟みに悩まされながら中間管理職は日々仕事をしている訳です。

僕は意外なことにこの部分にマネージャーとしての才能があるようです(自称ですが…)。

この種の調整も慣れてくれば段々快感になってきます。 そういう変態マネージャーへの道を共に歩んでいきましょう。