細部を積み上げるのが大事

仕事の強度を気付かれない程度に上げる

低迷しているチームと「そこそこのチーム」に外形的な違いはほとんどない。

たぶん傍から見たら何が変わったのかはよくわからないだろう。

働いているメンバーですら、その差異はわからないような気がする。

でもその違いこそがマネージャーがチームに必要な要素、マネージャーが影響力を及ぼせる範囲なのだ、そんな気が最近はしている。

では、その違いとは何か?

簡単に言うと、部下も気付かないくらいに仕事の強度を上げるということだ。

そして、それを継続することだ。

もう少し具体的に説明する。

(僕は営業の課長なので、例えが営業に偏りがちになってしまう。ご了承願いたい)

目的の無意識的シフト

例えば君がマネージャーをしている課の売上の数字が低迷していたとする。

売上を上げる、というのが君の使命だとする。

その場合のアプローチ手法はたくさんあるし、その売上が上がっていない原因によって打ち手は変わってくるとは思うのだけれど、ここでは単純に営業の手数が足りないことが原因だとする。

よくあるのが、マネージャーが「もっと電話をかけろ!」と号令をかけることだ。

「毎日20件の電話セールスをノルマとする。夕方に結果を聞くから、きちんと報告するように」

これは効果がありそうに思える。

停滞しているチームは大抵の場合はダラダラと仕事をしているし、電話セールスに対する意欲も低いからだ。

でも部下の立場からこれを捉えたらどうか?

電話セールスというのは精神的になかなか厳しい仕事だ。

断られるのが前提で、その断られ方も結構乱暴なので、精神的にかなり「くる」

1週間くらいなら続けられるかもしれないけれど、1か月真面目に取り組むのはまず無理だ。

少なくとも僕には無理だ。

でも1日20件電話しないと、マネージャーに叱責される。

ではどうするか?

20件電話したことにするか、とりあえず20件テキトーにこなすか。

こういう反応になる。

ここで目的が「売上を上げる」ことから「電話の件数を増やす(稼ぐ)」ということにシフトされる。無意識的に。

結果として、表面的な電話件数は増えているものの、売上は上がらない。

更に悪いことに、部下達も疲弊していく。

1日1件電話件数を増やす

では僕ならどうするか?

1日1件だけ電話件数を増やしてくれ、と言う。

「いやいや、1件増やしたところで売上なんて上がらないですよ?」

その通りだ。

でも僕はこう考える。

部下が10人いるとして、その部下10人が1件ずつ電話を増やすと、1日10件電話件数が増える。

1週間(5営業日として)で50件、1か月(20営業日として)200件、1年(240営業日として)2,400件電話件数が増える。

成約率を1%と仮定すると、1年で24件(月2件)は成約が増える。

大した違いではない?

いやいや、これが大事なのだ。

もちろんただ1件電話件数を増やしてくれと言っても、「はい。わかりました」というようにすんなり行くわけではない(だからそのチームは停滞しているのだけれど)。

だから「なぜ1件増やすべきなのか、その効果はどの程度なのか、毎日20件電話させろって社長は言っているけど、その方がいいか」とか、色々な話し方をして部下に腹落ちさせる。

大抵の場合、営業マンの処遇は営業成果によって上下するので、部下だって営業成績が上がった方がいい。

でも、どのようにしたら営業成績が上がるかわからないから困っているのだ。

営業マンにはもちろん質が求められる。

でも質なんていうものはすぐには良くならないものだ(というか、質が向上する可能性がある営業マンであれば、自分で解決方法を探ろうとするので、ここでは矛盾することを言っている)。

なので、とりあえず数を増やさせる。

そしてその増加幅はごく僅かでいい(というか、それしか継続できない)。

この「部下全員にどうやったらあと1件電話を掛けさせられるか? それもある種前向きに」ということを考えるのがマネージャーの仕事だ。

いてもいなくても大した違いはない。

でも、これができるようになると、少なくとも低迷したチームは「そこそこ」のチームにすることができる。

ナッジを上手く使う

今回は営業の例えになったけれど、他の業務でもそうだと思う。

ちょっとしたことにこだわりを持たせる。

それを継続させる。

すると、どこかのタイミングで運が巡ってきて、小さな成功が起きる。

それは本人の能力向上とか、努力の成果とか、そういったものとは関係なく、たまたま運が良かっただけのものであることが多い。

でも、本人はそれを勘違いする。

「ああ、毎日電話していたからうまくいったのか。課長がうるさいから仕方なくやっていたけど、意外と成果になるかもしれないな」というように。

すると、他の部下もその小さな成功を見て真似しようするので、全体的に少しだけモチベーションが上がる。全体的に少しだけ雰囲気が良くなる。

これがマネージャーの手腕だと思う。

外から見ても何の違いもない。

でも1年経て、2年経て、3年経ると、そこには全く違う種類のチームが出来上がる。

あとは勝手に部下がやってくれるようになる。

嘘じゃない。

きっかけは運だ。

でもそれを呼び込めば、最初の「ナッジ」があれば、チームは動き出す。

それではまた。

いい仕事をしましょう。


あとがき

自発的でない物事は継続しません。

そして継続がなければチームが改善していくことはありません。

マネージャーの仕事はこの「無意識の向上の継続」をどうやって起こすかということに集約されるような気がしています。

今回は行動経済学的な「ナッジ」という書き方をしましたが、誰かに押し付けられた、と感じさせることなく、部下を前向きに行動させることが非常に大事です。

男性小便器の中のコバエのようなユーモア溢れる仕組みを今日も考えていきましょう。