年月よりも対話を
単純接触効果は頭打ちになる
人と人の距離を詰めるにはどうしたらいいか?
あまり近づかない方が望ましいと考える僕も、流石に離れすぎは良くないと思うので、それなりにこの距離感を縮める為の方法を考え、実践してきた。
9年以上の経験から言えるのは、時間経過よりも対話をすることが大事、ということである。
よく言われるように、接する機会が増えれば増えるほど、その対象に対する警戒心が薄れ、好意が増す(単純接触効果)というのは事実だろう。
でも、それは同時に頭打ちでもある。
一定程度までの向上はするが、それ以上伸びることはない。
そして、「一定程度の向上」にもそれなりに期間を要することになる。
「だったら、取り敢えず1対1で話をしたら?」というのが今回の提案である。
僕は毎週1on1を続けている。
そこに何か大層な理由がある訳ではない。
ただ繰り返すこと。
対話する機会を強制的に設けること。
それが重要なのだ。
何だか言いたいことは既に言ってしまったような気もするけれど、取り敢えず始めていこう。
自分の言葉をそのままの純度で届ける為に
マネジメントにおいて大事なことの1つに、自分の言っていることをそのままの純度で部下に届ける、ということがある。
いや、この表現は適切ではないかもしれない。
あくまでも受け止めるのは聴き手であるから。
部下がどのように受け止めるかは、我々マネージャーは関与できないから。
となると、自分の言っていることをそのままの状態で受け止めて貰う(伝えたいことが伝えたいように伝わる)為にはどうしたらいいのか、という方向に考えは向かうことになる。
確かに言い方や、表情など、表現のスキルを高めるという方向がないこともない。
でも、それよりも大事なことは、マネージャーである自分の考え方や価値観を知ってもらって、「あの言い方はこういう意味なのだろうな」という適切な解釈が行われ、他意のない状態でこちらの意向が伝わるような関係性を普段から構築しておくことである。
ベースの信頼感の構築
これを僕はよく「ベースの信頼感」と言っている。
ベースの信頼感があれば、突拍子もないことはまず起こらない。
ただ同時に、この「ベースの信頼感」を作り上げるにはそれなりに時間と労力がかかるのも事実である。
それをできるだけ短期間に素早く作る為の方法が対話である。
それも1対1の対話である。
以下、もう少し詳しく書いていく。
たぶんマネージャー側が思っているだけ
「職場(デスク)にいても、私はそれなりに部下と話をしていますし、そこで下らないことも言い合いますし、良好な関係性(あなたの言うベースの信頼感)が構築できていると思うのですが…」
そのような声が聞こえてくる。
そしてこれは多くのマネージャーから寄せられる声でもある。
ただ、たくさんのマネージャー(や部下)と接してきた僕が言えるのは、「たぶんそう思っているのはマネージャー側だけ」ということである。
部下はそこまであなたに対して信頼感を抱いていない。
悲しい現実であるけれど、これが実際のところなのだ。
会話と対話
日本の職場においては、対話が少ないということがよく言われる。
その度に、「いや、私は部下とよく話をしているのだけれどなあ…」という反論を聞く。
もしかしたら、その人は部下とよく会話をしているのかもしれない。
でも、対話はしていますか?
時間ではなく、その質はどうなのですか?
そこを問うてみたらいいと思う。
極端なことを言うなら、1回の対話ですら、状況が大きく変わることがある。
それを知っているかいないかでは、マネジメントの方向性は大きく変わる。
それが僕が今回言いたいことである。
対話は疲れる
対話をすることは面倒くさい。
いや、面倒くさいというよりも、精神的に物凄く疲れる。
それはある種の真剣勝負であるから。
というか、真剣勝負的な要素がなければ、対話をする意味がないから。
集中して話を聞いてもらうという経験が大事
確かに、僕は1on1の間、下らない事ばかり言っている。
でも、それは面談自体がふざけていることを同時に意味しない。
相手の(下らない)話にも集中しているからだ。
そして、この集中して話を聞いてもらうという経験こそが、マネージャーへの信頼感を生み、言葉がそのままの純度で伝わる素地を作る。
当たり前の話であるが、自分の話を真剣に聞いてもらったことがない人の話を真剣に聞こうと思う者はいない。
そんな都合の良いことは起こらない。
「部下と会話している人」の多くは、それをあまり理解していないように思える。
たくさん話をしているから、理解して貰える訳ではない。
たくさんの時間を共有しているから、理解し合える訳ではない。
そこは勘違いしてはいけないと思う。
おつりは来る
部下全員との1on1の時間を捻出するのは確かに大変なことだ。
それも毎週となると、1週間のスケジュールが結構な割合で埋まることになる。
「それってコスパ的にどうなのか?」と流石の僕も何度も考えてきた。
でも、9年以上マネジメントという仕事をしてきた僕が言えるのは、「十分おつりは来る」ということである。
それは目に見える形での報酬ではないかもしれないけれど、自分がやりたいと考える方向にチームを向けていく為には必要なことである。
年月よりも対話を。
それではまた。
いい仕事をしましょう。
あとがき
マネージャーの人となりを理解して貰ったとして、仕事において具体的に何かが変わるのかと問われると、「大して変わらない」というのが実際の答えかもしれません。
ただ、この「大して変わらない」という意味には、「傍目から見ると」という言葉が含まれていると僕は考えています。
僕自身は大きな違いであると思うのですが、他人からは大して変わらないように見えるもの。
それこそがマネジメントの成否を分けます。
時間はかかりますが、部下と対話することは大きな違いとなります。
日々繰り返していきましょう。