対話が全てを解決する訳ではない

対話の重要性とその限界
マネージャーになって10年。
気が付けば、いつの間にか世間でも対話の重要性が語られるようになってきた。
「マネジメントにおいては対話が重要である」
そんな話。
僕はこのブログで対話の重要性をずっと説いてきた。
その気持ちは変わっていない。
でも、昨今の「対話が全てを解決する!」というような風潮にはちょっとした違和感を覚えている。
もちろん、しないよりはした方がいい。
絶対に。
ただ、それが全ての問題を解決する特効薬ではないことは頭に入れておくべきだ。
それでは始めていこう。
会社もようやく気付いてきた?
「マネージャーが部下と対話をしていなさ過ぎる」
それは僕がマネジメントという仕事を実際にやってきて、心から思うことである。
そのことにようやく会社側も気付いてきたのか、最近は「部下と対話をしなさい」ということをマネージャーに求めてき出したように感じている。
それ自体はとても良いことだ。
でも、同時にその礼賛具合というか、1on1さえやっておけば万事OK!みたいな振れ幅には違和感を覚えている。
アピールしなければ変わらないのかもしれないが…
確かに現状を変える為には、そのくらい極端なアピールをしなければならないのかもしれない。
多くのマネージャーは「忙しい!」と言って、対話の時間を出来るだけ削減しようとするから。
でも、10年近く毎週部下と1on1を続けてきた僕が思うのは、「対話というのはあくまでベースラインであって、それをやるからといってあらゆる問題が解決する訳ではないんだよな」という、まあ言ってみれば当たり前のことである。
対話はあくまでベースライン
もちろん、対話をすることによって、マネージャーと部下双方の理解が深まり、そこにベースの信頼感が醸成され、仕事がやり易くなる、それは事実だろう。
実際に、ベースの信頼感が構築できず、基本的なマネジメントすら出来ていない人が大半であるから。
ただ、ベースの信頼感が構築されるというのは、その言葉通りあくまでも「ベース」の話であって、そこからが「本番」であることも事実なのである。
対話が有用なのは間違いない。
でも、万能薬ではない。
それは心のどこかには留めておくべきだと僕は思う。
やや短絡的過ぎる?
あらゆる問題の根源に「対話がないこと」を挙げるのは、間違っているとまでは言えないものの、本質的なことから目を逸らしてしまうリスクを孕んでいると最近は考えている。
というのも、何か問題があれば、それは「マネージャーが部下と対話をしていないからだ」と、ある種短絡的に結びつける人がそれなりに多くいるように感じるからである。
もしかしたら、その片棒を僕も担いでいたのかもしれない。
それくらい対話すら実行していないマネージャーが多いのは事実だし、それによって問題が生じたり、大きくなったりしているのもまた事実だろう。
でも、一方で、対話をすればその問題が解決するかと言えばそんなこともないように思う。
もう少し根源的な話がそこには内在しているように思うのだ。
できることとできないこと
組織の問題はそれぞれのレイヤーに生じていて、ミドルマネージャーの行動が改善すれば組織全体が良くなるというのは、その通りだと思う反面、矮小化し過ぎているのではないか、という疑問も湧いてくる。
いつも言う話で恐縮であるが、我々にはできることとできないことがある。
そして、1on1を適切に行っていけば行くほど、このできないことの壁の高さと厚さにウンザリするのも事実なのだ。
1on1は対症療法に過ぎない
表現が難しいが、1on1は対症療法に過ぎないのではないかと思う時が僕にはある。
部下が抱えるフラストレーション、会社に対する違和感、キャリアに対する不安、家庭での問題、その他諸々を、1on1によって緩和し、前向きに努力できるように支援する、その効果は絶大ではある。
でも、それらの問題に向き合えば向き合う程、現状の変わらなさと未来への展望のなさに打ちひしがれそうにもなる。
部下との相互理解はとても大事であるし、それによって仕事の質が上がり成果が大きく伸びるようになる、それは経験として僕は胸を張って言えると思っている。
ただ、それが全てではないし、会社における人事制度や業務内容が変わらなければそこから先には行けないんだよな、と感じることが増えてきたのもまた事実なのだ。
不和になってしまうような制度設計
もう少し言えば、対話が組織の問題を全て解決する訳ではないのに、コミュニケーション不全にその責を負わせるというのは、ちょっと違うように僕は思う。
繰り返すが、コミュニケーションに問題があるのは事実だろう。
その要因として、対話が少ない、それも事実だと思う。
でも、ではそのコミュニケーション不全になっている原因は何なのか、についてはもう少し粒度を上げて考えていく必要な気がしている。
そこにあるのは単なる不和ということではない。
不和になってしまうような制度設計があるのではないか?
最近つとにそう思うのだ。
対話しても解決しないことはある
コミュニケーションの改善は言うまでもなく重要だ。
でも、それはある種問題の本質から目を逸らすことに繋がるようにも感じている。
「対話しても解決しないことがある」
それを抱えながら、今日も僕は1on1を続けていこうと考えている。
それではまた。
いい仕事をしましょう。
あとがき
頭の良い人たちと話をしていると、「言っていることは間違ってはいないんだけれど、なんか違うんだよなあ」と思う時があります。
その「違い」の1つに、今日のような話も含まれているように感じています。
対話が重要なのは言うまでもありません。
でも、それが対話の充足が根源的な問題を解決するかというのはまた違う話です。
対話を続けながら、そのような問題への働き掛けも怠らずにやっていきましょう。