不慣れなことをやってみる
「ナリ」でできるようになってきたら危険
初心忘るべからず、という諺はビジネスをやる上で常に心に留めておきたい言葉である。
それはマネジメントにおいても例外ではない。
何年もマネジメントをやっていると、日々がどんどんルーティン化していって、惰性でも何とかなってしまうものだ。
特に僕の場合は、自分が営業出身者ということもあって、業務内容(営業)とマネジメント範囲(営業課長)が合っているので、余計にそれが当てはまる。
要はダレてしまうのである。
最初の頃は、日々巻き起こることに対処することで精一杯で余裕なんてなかったけれど、何年かやっていると、大体の出来事というのは予想の範囲内に着地する。
力を入れずとも「ナリ」でできるようになってしまう。
それを防ぐための方法が、今日の話である。
それでは始めていこう。
誰かに叱られる経験と、向上しようと藻掻く経験を
日々の仕事に対する飽きや、馴れ合いを是正する方法は、「自分を経験のない分野に置く」ということだと思う。
それはもちろん仕事でも良いし、習い事などでもいい。
とにかく、役職がないところに身を置いて、誰かに叱責される(指導される)ということが大事なのではないか、と僕は思っている。
そして冷汗をかきながら、何とか向上しようと藻掻く経験が重要なのだと思っている。
もう少し詳しく書いていく。
初心者になる、その状態そのもの
兼業や副業が持て囃されている。
そこには副収入を得るとか、業務範囲を拡大するとか、違う知見を身に付けるとか、様々な動機や目的があるようだけれど、僕が思う大事なことは「初心者になる、その状態そのもの」である、ということだ。
自分が初心者である環境は、冒頭に書いた初心を、否が応でも思い出させてくれる。
使っていなかった脳の部位を使わざるを得ないような環境、バックグラウンド処理だけでなくフォアグラウンドにリソースを使わなければならないような環境、それが大事なのだと最近強く思うのだ。
リソースを総動員してもどうにもならない事態を
同じ仕事をしていながら、初心を思い出すことは難しい。
経験やノウハウがあるので、地力だけで何とかなってしまうからである。
しかしながら、新しい分野であるとそうもいかない。
手持ちの武器を総動員しなければ、どうにもならないのである。
いや、総動員したとしても、しょうもない着地になってしまうのである。
ただ、それが大事なのだ。
初心者を通過した後の踊り場
僕はマネージャーになって何年かしてから、勘違いしてしまいそうになった記憶がある。
負荷をかけずとも仕事が円滑に回っていくので、自分は優秀なのではないかと思ってしまいそうになった(いや、実際に思ってしまった)のである。
これは優秀なのではなく、ただ「慣れただけ」なのである。
スポーツでもそうだと思うけれど、初心者の時期を通過すると、成長の速度が鈍化する「踊り場」みたいな状態になる。
もちろん新しい技を身に付けようとしたりして、その状態にならないように手を尽くすのだけれど、どうしても手元にあるスキルだけで乗り切ろうとしてしまう(そして実際に乗り切れてしまう)ので、結果的にあまり成長しなくなってしまうのだ。
そして初心者の頃の緊張感や、向上心みたいなものを忘れてしまう。
現状に満足してしまう。
惰性を無理やり壊す
これ自体は良いとか悪いとかそういう話ではなく、「そういうもの」なのだと思う。
自然に任せていると、そのような状態になってしまうのが人間の性なのだ、きっと。
だからそれを無理やり壊す。
それが不慣れなことをやってみる、ということである。
裸の王様。井の中の蛙。
これは「専門バカ」を防ぐためにも有効だと思う。
僕がスペシャリストに憧れながら、相反する一定の軽蔑心を持っているのは、この辺が関係しているのかもしれない。
一握りのホンモノを除いて、大体の自称専門家は「ただ守備範囲が狭いだけ」のことが多いような気がしている。
それは意地悪なことを言うと、その中に留まっていれば自分は王様でいられるから、である。
その分野だけをやっていれば、その分野だけをやっていない人よりも上手にできるのは、ある種当たり前である。
でも、(僕もかつてそうだったように)勘違いしてしまうのである。
自分は優秀だからできているのだ、と(ただの慣れなのに)。
部下に教えを乞う
それを強制的に破壊するのが、不慣れな業務に挑むということである。
これをもう少しマネジメント本風に言い換えると、「部下に教えを乞う」ということに繋がってくる。
マネージャーは全ての分野でトップである必要はない。
というか、そのようなマネージャーは現代ではあまり効果的とは言えない。
それぞれの部下が持つ専門性や得意分野に対して、「教えてもらう」スタンスが、部下の能力を向上させ、チームの化学反応を生むのである。
脳に新しい回路を
いつも言うことだけれど、マネージャーは別に「上」ではない。
ただの「タスク」として、マネジメントという仕事をチーム内で割り当てられているだけである。
それを忘れない為に、謙虚に仕事をする為に、仕事でも習い事でも不慣れなことに挑戦してみると良いと思う。
あなたの脳はまた新しい回路を見つけ出して、それがマネジメントにもフィードバックされるはずだ。
それではまた。
いい仕事をしましょう。
あとがき
今日の話は、ダサい大人にならない為の方法です。
武道に「居着く」という状態がありますが、「居着く」とダサくなります。
それを防ぐためには、概念を壊し続ける必要があります。
デリダ的に言うなら「脱構築」ということになるのかもしれません。
それを僕なりにわかり易く表現したのが、「初心者になる、その状態そのもの」ということです。
冷汗をかいて、藻掻いていきましょう。