現実歪曲フィールドの使い手たち
現実を認め、直視した方がいいのでは?
「誰もが不可能だと思っていることでも、巧みな話術によって実現できると納得させてしまうこと」
スティーブ・ジョブズのカリスマ性により、そのような磁場が構築されることを表現したものが現実歪曲フィールドという言葉である。
これはここではポジティブな用法となっているが、もちろんネガティブな意味もある。
「現実を認めない」というその点において、この言葉はポジティブにもなり、ネガティブにもなりえる。
誰もがジョブズには憧れるけれど、それを使いこなす為には相当な資質が必要であり、その資質がない大半の人は現実を捻じ曲げることなく、直視した方がいい、と僕は思っている。
ヘンテコな話術だけを身に付けたところで、人を心酔させ、多くの人を巻き込んでいくことはできない。
今日はそんな話である。
現実は様々。だけど…
会社の中には現実歪曲フィールドの使い手がたくさんいる。
僕は冗談めかしてそう言うことがある。
というのも、僕から見える現実と彼(彼女)らから見える現実があまりにも異なっているからである。
もちろん、現実の見え方は人それぞれではある。
同じ事象であったとしても、捉え方が様々であることはそんなにおかしなことではない。
でもあるレンジ(範囲)内には収まるとは思うのだ。
それをあまりにも逸脱している人が多すぎる。
そして、それを疚しいとも思っていない。
もしかしたら、気づいてさえいないのかもしれない。
そんな状態のまま、マネジメントという仕事をしているのだ。
明るい展望を話すことは悪いことではないが…
どうやったってうまく行くはずがない。
彼(彼女)らの認識している現実が捻じ曲がっているのだから。
出発点が間違っていれば、どんな方向に進んだとしてもそれは間違いなのだ。
もちろん、ジョブズのように、そこにはポジティブな意味合いが込められていないこともない。
現実は厳しいけれど、努力を続けていれば、明るい未来が到来するはずだ。
そうやって部下を労い、励ます、それはリーダーとしての大事な資質である。
ただ、そこで語られる明るい未来があまりにも現実から乖離していると、それはうすら寒いだけである。
でも、それには気づけない。
なぜなら、認識している現実が歪んでいるから。
本心からそれを現実だと信じ込んでいるから。
まあ(いつもの通り)僕がおかしいのでしょうけれど
いや、きっと僕の方がおかしいのだ。
こんなにも多くの人の認識が間違っていると思うのは、きっと僕がおかしいからなのだ。
世の中はいつだって正常。
僕はいつだって異常。
きっとそうなのだろう。
不可能なものを可能だと言い続けることがリーダーの役割なのか?
以前にも書いたことだけれど、こうなって欲しいという願望と、そこにある現実は異なる。
でも、リーダーシップというものを勘違いすると、不可能なものを可能だと言い続けることがリーダーの役割であると思うようになってしまう。
前述したように、それは必ずしも間違いとは言えない。
ただ、それが通るのは、その人がそれを本当に実現できるんじゃないか、と思わせられるまで行った場合のみ、である。
マネジメント本の影響か、はたまたその種のセミナー(TED的なものも含む)のせいなのかわからないけれど、ジョブズのようなスタイルを形だけ真似たマネージャーが多すぎるように思うのだ。
もちろん、本物はいい。
本物になろうとすることも否定はしない。
でも、言いっぱなし、やりっぱなしはなしだぜ?
結局は成果
実際のジョブズがどうだったかはわからないけれど、少なくとも僕が出会うニセジョブズたちは、1度自分が熱を込めて話せば聴衆が熱狂し、不可能を可能にする為に自動的に動き出す、というようなイメージを持っているように感じる。
「いやいや、あなたはジョブズじゃないし、そのようなカリスマ性もないですよ?」
その度にそんなことを思う。
ただ、そう思ってから、「いや、それだってその人のマネジメントスタイルなのだから、尊重すべきなのでは?」とも思い直す。
そこで僕はまた原点に戻ってくる。
「成果で勝負しようぜ?」と。
未来でお会いしましょう
現実を捻じ曲げた理想。
大言壮語の類。
それを言う権利を否定することはできない。
そして、先ほども言ったように、僕自身がおかしいだけなのかもしれない。
それなら、未来で勝負をしよう。
あなたの言うその理想がもし叶うなら、その成果は莫大なものになるはずだから。
そこでまた再会しよう。
言うだけではダメ
僕はマネジメントは成果である、とずっと言い続けている。
それは、このような「キレイゴト」を並べる人、並べるだけで素晴らしいと思っている、それがマネジメントなのだと勘違いしている人が、あまりにも多すぎるからだ。
多くの人をモチベートしようとするのは、マネジメントの手段の1つに過ぎない。
大事なのは目的を叶えることだ。
成果を出すことだ。
言うのと動かすのは違う
「野暮なこと言うなよ」
この種の人は、実際のプロジェクトが走り始めて、成果が出ないことが続くと、そんなことを言い始める。
自分が言った未来が到来しないのは、部下の動きが悪いからだとの印象を与えようと必死に画策する。
それは単純にマネジメントのスキルが足りないだけなのだ。
言うことと、実際に動かすまで行くことは大きく異なる。
それがわからないうちは、まずは現実を直視するような、地道なマネジメントをやった方がいい。
僕はそう思うのだ。
それではまた。
いい仕事をしましょう。
あとがき
格好良いことばかりを言うマネージャーは多いですが、それが事後的に検証されることは殆どない。
ここに日本のマネジメントの問題点があるような気がしています。
理想的な未来を語るのは自由ですが、そうじゃない現実が訪れた時には、そのツケは払って欲しい。
これは何も「責任を取れ!」ということを言いたいのではなく、言いっぱなしをすることへの対価を増やすことで、言動に責任を持つ人が増えることを願ってのことです。
破壊的イノベーション?
トランスフォーメーション?
その器じゃない僕のような人間は、現実を直視し、日々をアップデートさせていきましょう。