感情を安定させる
マネージャー業はイライラすることばかり
マネージャーをやっていると日々腹が立つことが起こる。
今となってはそういう細々とした事象に対処する術が身についてきたものの、マネージャーになりたての頃はいちいち反応して、勝手に苛立っていた。
マネージャーがイライラしていると、そういう空気は確実にチームに伝わる。
ピリピリしているというか、変な緊張感があるというか。
当然ながら、そういう雰囲気の中では新しいアイディアとか画期的な戦略とか、そういうクリエイティブな事象は起こらない。
みんな黙々とその怒りから避けるように仕事をするようになる。
自分勝手な話なのだけれど、それはそれでまた腹が立ってくる。
我関せずみたいに仕事しやがって、とか思うようになる。
悪循環だ。
6秒間我慢する?
では、感情を安定させる為にはどうしたらよいのか?
アンガーマネジメントの世界では「6秒我慢しなさい」というようなことがよく言われるけれど、これは正直言って僕にはあまり効果がなかった。
というか、6秒我慢できるくらいならそれは怒りではない。
もちろんアンガーマネジメントの文脈では「衝動的に起こるのはやめなさい」ということなのだろうけれど、僕の場合はそれはあまりない。
どちらかというと、沸々と怒りが沸き立ったまま持続しているという感じだ。
何とか溢れる手前で堪えているのだけれど、何回か同じ事象が繰り返されると、もう我慢ができなくなってしまう。
溢れるまでいかなくても、ずっと胸の内に怒りを抱えているので、何となくイライラしたままの状態で仕事をすることになる。
これは自分でも嫌な感情だ。
相手の家族のことを考える
では僕がやっている対処法をお教えしよう。
それは「相手の家族のことを考える」というものだ。
もう少し詳しく説明する。
その怒りの対象である部下を仕事から一旦切り離して、家族における立ち位置を想像してみる。
例えばお父さん、お母さん、息子、娘、そういった生身の人間としての立場を想像する。
すると、不思議なことに「まあしょうがねえか」と思えてくる。
例えば、年上の部下がお客さんを怒らせていたとする。
「なんでいい歳してきちんと対応できないんだよ!」という怒りの感情が湧いてくる。
その時にその人の家族における立ち位置を想像する。
「でも、この歳で色々頑張っているんだよなあ。というか、こんな年下の上司に怒られているなんて知ったら、奥さんとか娘さんは嫌だろうなあ」
こんな風に考える。
すると、少なくとも感情に任せて怒り散らすということは完全に防げる。
沸々と沸き立つような怒りも、「まあしょうがねえよなあ」というような優しい諦めというような感情に変わってくる。
上司部下という関係から離れて、俯瞰して人間関係を眺めることができるようになる。
ただたまたま上司部下としてここにいるだけなんだよな、他にも生活があるんだし、というような少し引いた視線を持てるようになる。
一旦このモード変換を覚えると、感情を安定させることはそんなに難しいことではなくなる。
もちろんその怒りの原因となった事象に対しては対処すべきであるけれど、それを超えて注意したり指導したりということはできなくなる。
「家族での立ち位置を想像する」というのに加えて「体調を考える」ということを考える場合もある。
実際に持病があったり、過去入院していたことがあったり、そういうことはあまり職場では話されないけれど、こういうことを知っているかいないかでは感情の処し方が大きく変わってくる。
仕事以外の側面を知っておく
これは僕自身の経験から身に付けたものだ。
僕はどんなにできない部下でも誰かの息子や娘であり、それが会社で叱責されていたら嫌な気分になるだろうな、ということを想像することができる。
どんなにパソコンが使えない中年社員でも、誰かの親であり、自分の親にも近い年齢であり、「そりゃできなくても仕方ないよな」と思うことができる。
僕は自分自身がロクな人間ではないという自覚があるから、方法論としてどうやったら感情を安定させられるのかということを考えるしかなかった。
元から善人であれば、こんなことを考えなくても自然とそういう行動が取れるのだと思う。
でも僕の場合はこういうワンクッションを入れないと感情を安定させられない。怒りを抑えられない。
これができるようになると、イライラしている自分に対する嫌悪感もだいぶ薄れてくる。
もちろん日々腹が立つことは変わらないのだけれど、少しだけ部下に対して優しく対応することができるようになる。
付け加えるとするのであれば、部下の仕事以外の面を知っておくと、これはもっと容易くなる。
たぶん昭和時代の社内運動会とか社内旅行とかそういったものは、そういう仕事を離れた一面を知るという効果があったのだろうと思う。
人間として付き合うというか。
今はそれはなかなか難しい。
だからこそ仕事以外の面を知っておく必要があるのだ。
それではまた。
いい仕事をしましょう。
あとがき
感情に身を任せると良いことは何ひとつありません。
もちろん今でも失敗してしまうことはたくさんあるのですが、瞬間的な感情に反応しないというスキルはマネージャーに不可欠です。
上手く説明しづらいのですが、マネジメント業というものは時間軸がゆっくりであるような気がしています。
地層に水が染みこんでいくように、ある事象の効果や反応は時を経ないとわからない、というのが僕が最近見つけたマネジメントの本質です。
そういう意味では、ある種の愚鈍さというか、恐竜のような反応というか、鷹揚さというか、そんなものが大事だと考えています。
小物はすばしっこいけれど、大物は泰然としている。
そんなギャングの王のようなゆったりとした気持ちが持てたら、マネジメント業は少しだけやり易くなります。
自分なりの感情のコントロール方法を身に付けましょう。