信頼を積み重ねる
信頼貯金を貯めよう
マネージャーには「信頼貯金」が必要だ。
この残高がたくさんあれば、大抵の問題は乗り越えることができる。
一方、これが底をついていたり、借金をしているようであれば、マネジメントは途端に困難になる。
では「信頼貯金」はどのようにしたら積み上げられるのか?
1つは文字通りの日々の積み重ね。
もう1つはピンチの時のボーナスタイムだ。
「言ったことをやる」「できないことは言わない」ただそれだけのこと
では1つ目から。
自分が誰か他人を信頼するということに置き換えて考えてみればわかる通り、信頼というのは1日で得られるものではない。
コツコツと1日単位では誤差でしかないようなものを積み重ねていくしかない。
僕は「言行一致」ということをよくここでも書いているのだけれど、「言うこと」と「すること」を日々同一化させる。それをひたすら続ける。
それしかない。
マネージャーは時に組織と部下の板挟みになることがある。
その際に、上昇志向の強いマネージャーは上ばかり見て発言してしまうのだけれど、それは「信頼貯金」上はマイナスだ。
もちろん組織の意向を叶えることは非常に重要だ。
だが、それは地に足の着いたやり方でなくてはならない。
マネージャーから言葉が浮くようなことがあってはいけない。
オウムのように組織の意向を繰り返しているだけでは部下からの信頼は得られない。
部下からの信頼が得られなければ、上司からの信頼も得られない。
自分で言ったからにはそれに沿った行動を取る。
行動としてできないことは言わない。
非常に簡単な話なのだけれど、これが実際にはなかなか難しい。
でもこれができなければ信頼を積み上げることは不可能だ。
ピンチはチャンス
もう1つはピンチの時の対応だ。
よく言われる話ではあるが、ピンチの時にはその人の人間性がモロに出る。
そしてマネジメント業というのは常にピンチと隣り合わせの仕事でもある。
ピンチであるのがデフォルトと言ったって言い過ぎではないだろう。
その際にどのような行動を取るのか、それがマネージャーには非常に重要だ。
でも裏返せば、これはチャンスでもある。
日々の行動によって「信頼貯金」が目減りしている場合には、ここで一気に取り返すことができる可能性がある。
頼りなさそうに見えていたマネージャーが実は非常に胆力のあるマネージャーであった、となれば、部下の評価はうなぎ登りだ。
普段から「自分は部下から信頼されていないかもしれない」と考えているマネージャーは、ピンチの時ほど一生懸命その問題に立ち向かった方が良い。
そこから劇的に状況が改善する可能性があるからだ。
僕はもちろんピンチは非常に嫌なのだけれど、追い込まれれば追い込まれる程面白がってしまう性格なので、ここでポイントを稼ぐことが多い。
嫌らしい言い方になってしまうけれど、「ピンチの時に人間性が出る」という観念を逆に利用すればいいのだ。
自分への信頼貯金は自信になる
ある時、部下が信じられないようなミスをしたことがあった。
本人もその重大さに気付いていて、茫然自失としていた。
そして他のメンバーはできるだけ関与しないように、火の粉が自分にかからないように、距離を取っていた。
当然その部下は孤立した。
僕は涙ぐむその部下から事情を聴いて、可能性は限りなく低いけれど解決できる望みがわずかにあったので、1日かけてその部下と走り回った。
結果的にそれは幸運によって解決できた。
でも大事なのは「解決すること」それ自体ではないということをこの件から僕は学んだ。
他の部下から時間が経ったときに言われたのは、「課長はよくあそこで怒鳴らなかったですよね。オレだったらたぶん物凄く怒っていましたし、あいつのせいにしたはずです。あれは本当に凄いと思いました」ということだ。
僕自身はマネージャーになりたてであったこともあって、打算的に怒らなかった訳ではなくて、ただ単純に動揺していただけだ。
でもそこには僕の人間性が出ていたのだと思う。
僕自身過去に同じようなミスをしたことがあって、その時のマネージャーから責任を押し付けれられて(もちろん大半は僕が悪かったのだけれど)、とても嫌な気分になった経験があったから、そうはなるまい、と考えただけなのだ。
自分で言うのはなんだけれど、弱っているところに追い打ちをかけるような真似は少なくとも僕にはできない。
それは数少ない僕の長所の一つだと思う。
僕はただ必死で無我夢中だっただけなのだけれど、それを見たメンバーは結果的に僕を信頼してくれるようになった。
今はもう少し経験を積んだので、打算的にこういうピンチを利用する余裕がある。
でもその時の僕は本当に自らの人間性だけで勝負していたし、それを振り返ると、少しだけ自分を誇らしく思う。
そしてその時からようやく僕もマネージャーとしての自信が少しだけ持てるようになった。
少なくとも僕は土壇場で保身に走る人間ではない、ということがわかったことは非常に大きかった。
なんというか、改めて自分を信頼できた。
自分への「信頼貯金」も大事なのだ。
他人からの信頼と自分からの信頼(自信)がある程度溜まってくると、マネジメント業は少しだけ楽しくなってくる。
厳しい道のりであることは承知の上で、僕は本心からそう言うことができる。
それではまた。
いい仕事をしましょう。
あとがき
日々の信頼が積み上がっていると、無理が利くようになります。
これがチームの面白い所で、目に見えない信頼関係のようなものが火事場の馬鹿力を生んで、それがマネージャーを助けてくれる、そういうことがよく起こります。
これを信じ切れるか、そうでないか、はマネージャーの大きな分かれ道であるような気がしています。
僕はただ人間の善性みたいなものを盲目的に信じている楽観的なバカに過ぎないのでしょう。
そしてピンチの時に「面白くなってきやがったぜ…」と呟けるようなサイコパスなのでしょう。
理解者は少ないですが、共感していただける部分があれば幸いです。