目的を付けない対話を

1on1とコーチング
マネジメントにおいては対話(1on1)が重要だとずっと言い続けている。
ただ、そのような話をすると、「それってコーチングのことですか?」と結構な頻度で問われる。
その度に、「コーチングと言えばコーチングなのだけれど、世間一般で言われているようなコーチングとは違うんだよな。でも、それを簡単に説明するのって難しいな」と思うことになる。
だから、今日はその違いを文章にしてみようと思っている。
ご多分に漏れず、駆け出しの頃の僕は、世間に溢れているマネージャー本を読んで、「ほうほう、マネジメントにはコーチングが重要なのか、なるほど、すぐやってみよう」と思い、部下相手に何度も実践を試みてきた。
その度に「何だかしっくりこないな…」と思い、やってはやめ、やってはやめを繰り返してきた。
そして、現在時点における僕の結論は、「1on1はコーチングではないし、その違いというのはゴール(目的)を置くか否かであり、1on1にゴール(目的)はいらない」というものである。
何だか書きたいことは全て書いてしまったような気もするけれど、取り敢えず始めていこう。
「効率」至上主義
現代はコスパ(タイパ)の時代である。
というか、いつの時代もコストパフォーマンス(タイムパフォーマンス)というのは求められてきたのだろうし、これからも求められていくのだろう。
時間単位でどのくらい効率的に成果を上げられる(た)のか?
それが重要である、という概念。
もちろん、基本的には僕もこのような考え方に賛成である。
そして、日本において生産性が低いのは、このような考え方が実際には浸透していないからであるとも思っている。
ただ、「効率」というものを真に考えるなら、「一見回り道に見えるものが実は有効である」ということも頭に入れる必要があると僕は思っている。
直線的なタイパ思想
僕からすれば、現在言われているコスパ(タイパ)の殆どは直線的(かつ短期的)である。
「イマココにあるもの」をどのように短縮化し、生産性を上げるかというイメージ。
また、そこで重要になる概念が「成果物」というものである。
「如何に短時間で質の高い成果物をアウトプットするか」というような思想。
まあ、わからんではない。
でも、ちょっと安直過ぎないか?
それが僕の感想である。
1on1の成果物?
これは今日のテーマである対話にも関係してくる。
対話(1on1)というのは、それなりに時間が掛かる。
これはコストがそこに掛かっていることを意味する。
「それなら、それなりのアウトプットが必要だろ?」
「1on1の成果物を出そうよ!」
そのような考え方。
それがコーチング的な概念に繋がっていく。
コーチングは質の高い部下がいないと成立しない
コーチングにおいては、面談(1on1)のゴール(目的)を定めることが推奨されている。
そこに向けて伴走(コーチ)していくことが、良しとされている。
何とも西洋的な概念だと僕には思える。
もちろん、意味は分かるし、その効用も理解できる。
ただ、何度も実践してきた僕が思うのは、「それなりに質の高い部下がいないと成立しない」ということである。
部下の動機付けは僕らの仕事ではない(が、せざるを得ないのが現実)
当たり前の話であるが、コーチというのは、選手が向上を目指しているから成り立つ仕事である。
でも、もし選手がそこまで向上を目指していないとしたら?
それをチア・アップするのも僕らの仕事なのだろうか?
僕はそうは思わない。
というか、そうは思わないけれど、仕事を進めていく上では実際にはそれをせざるを得ないし、それならコーチングという手法は有用ではないと思ってしまうのだ。
成果物厨
僕は1on1には目的(ゴール)がない方が有効だと思っている。
ゴールを定めない対話こそが成果の向上には重要なのである。
こう書くと、前述したような「成果物厨」が湧いてきそうだけれど、その気持ちもよくわかる。
目的を定めない対話をしても、具体的な成果物など生まれないから。
ただ、それが重要なのだ。
1on1は成果を指数関数的にする
これを言語化するのはとても難しい。
でも、何とか頑張って言語化しようとするなら、「チームに心理的安全性が確保されることによって、メンバーそれぞれの個性が表出され、チームという場にイノベーションが生じる。そしてイノベーションの創出は、成果を単線的ではなく、指数関数的にする」ということになるのかもしれない。
そうなのだ。
目的のない対話は、成果を(足し算や掛け算ではなく)累乗化するのである。
これが僕の言いたいことである。
そして、それは「具体的な成果物」として提出することができないものでもある。
成果の上がるチームとそうでないチーム
「何だかよくわからないけれど、このチームにいると成果が上がるな」というような感覚。
自分の能力が上がったかのような錯覚。
それを実現するのが目的を付けない対話である。
コスパ(タイパ)が求められる環境下で、これを短期間で実現するのは確かに難しい。
でも、一旦土台が完成すれば、後は自動運転というか、メンテナンスだけすればいいのである。
勝手に成果が上がるようになるから。
もちろん、そこには1on1に物凄い時間が費やされているのだ。
ただ、それは部外者にはわからない。
下らない話をしているだけで、成果が上がっているなんて想像もしえない。
でも、それこそがマネジメントだと僕は思うのである。
それではまた。
いい仕事をしましょう。
あとがき
「コーチングは目の前の部下しか見ていない」
そんなことを思います。
もちろん、コーチングの主旨や効用はわかります。
でも、マネージャーとして大事なことはチーム全体を底上げすることです。
それは個々人をレベルアップすることだけでは成し得ないと僕は考えています。
チームと個人の好循環。
それを作る為には、目的のない対話が欠かせません。
ゴールだけでなく、その過程にこそマネジメントの本質があることを意識していきましょう。