マネージャーの仕事をサッカーに例えてみる
マネージャーの仕事は多岐にわたる。
どこから手を付けたらいいのかわからないので、とりあえずサッカーに例えてみることにする。
担当者とマネージャーの違い
担当者とマネージャーの違いは、ポジションの違いだろうか?
ポジションで言うと、担当者はFWだ。
担当者としての栄誉はFWとしてゴールを決めること。営業で言えば、大きな数字を上げて目立つことだ。
試合を決定づけるような仕事をして、ヒーローインタビューに呼ばれたりする。とにかく華々しい。
一方、マネージャーのポジションはどこか?
感覚的にはDMFに近いかもしれない。ボールを刈り取り、方々にボールを散らす。試合を組み立てる感じだ。
もっと言うと、時には前線に上がって点も取らなければならないし、最終ラインまで戻ってクリアもしなければならない。
キーパーが負傷した時には、グローブを嵌めて、ゴールマウスを守らなければならない。
マネージャーの仕事はサッカーの監督に似ている
マネージャーになりたての頃はそう考えていた。
でも今は違う。
「監督」というほうがしっくりくる。
マネージャーは監督として、そのチームがどうやったら勝ち点を取れるか、1部に残留できるか、ということに心を注ぐことになる。
というか、プレーイングマネジャーをあまり好ましいものだと思わない僕からすれば、本来はこちらの仕事に心血を注ぎたい。
チームでは日々色々なことが起こる。
自分のやり方で凝り固まったベテランも、伸び悩んでいる中堅も、自意識過剰の若手も、それぞれがそれぞれの不満をまき散らしながらクラブハウス(営業現場)での日々を送る。
効果的なトレーニングメニューを説いても、栄養学の大切さを指導しても、筋トレの有用性を諭しても、彼らは耳も貸さない。
自分なりのやり方で、それまでの慣れ親しんだ方法(でもいまだかつて結果が出たためしがない方法)で、ただ淡々と日々を過ごしていく。
そしていつまでも向上しない自身の不甲斐なさを、外部環境や監督・コーチのせいにする。
オーナー(上司)からの口出しも煩わしい
オーナー(上司)はオーナーで、自分のチームの結果が出ていないことに対して文句を言ってくる。
曰く、監督・選手が悪いと。
曰く、他のチームではこんな風にやって上手くいっている、なぜそれをやらないのかと。
特に選手経験がないオーナーは、どこかで聞きかじった方法論や、最近読んだのであろうベストセラーから拝借した理論を滔々と述べる。
そして、結果が出ていない限り、雇われ監督である自分は、(そのやり方に納得していなくても)その通りやっているようにしなければ(演じなければ)ならない。
ものすごくストレスフルだ。
マネージャーの仕事は「結果を出すこと」
では、どうすればその現状を変えられるのか。
結果を出そう。
これが結論だ。
そうすれば、君は君のやりたいサッカーができる。
というより、自分なりの戦術で戦うことができる。
すぐには結果は出ないだろう。
もしかしたらずっと結果が出ないまま解任されるかもしれない。
でも、と僕は思う。
自分なりの方法論で結果を出すことがマネージャーの醍醐味だ
言われるがままのサッカーをやって君は満足できるだろうか?
集まった選手達は、残念ながら君が本来やりたいポゼッション・サッカーができるほどの技術がないかもしれない。
ビルドアップなんて夢のまた夢なのかもしれない。
でも、君は君の選手たちの長所をそれぞれ活かして、戦術を練り上げることができる。
不本意ながら、もしかしたら大嫌いなカウンター・サッカーで戦うしかないかもしれない。
現有戦力からそう判断せざるを得ないかもしれない。
それでも知恵を絞れば何とか1部残留(最低限の目標達成)を勝ち取れるはずだ。
もちろんそれは理想とは程遠い。
でも、何の経験も持っていないオーナーに言われる非現実的な戦い方(「バルサみたいにやればいいじゃないか」と彼らは簡単に言う)とは大違いだ。
そこには君の意思が現れる。
君がそこで監督をやっている意味が生まれる。
それがマネージャーの醍醐味だ。
プレーヤー時代の栄光は忘れよう
プレーヤーとして注目されるのはとても気持ちが良い。
ゴールを決める爽快感は何物にも代えがたい。
その快感とのギャップにきっと最初は戸惑うはずだ。
残念ながらマネージャーの仕事はアドレナリンが出るようなものとは程遠い。
日々淡々と持ち込まれる難題を乗り切りながら、ささやかな選手たちの成長に喜びを覚えることくらいしか楽しみはない。
マネージャーの仕事が評価されることは少ない。けど…
マネージャーの仕事が評価されることは少ない。
仮に1部残留したところで褒められるわけでもない。
それどころか、何で優勝じゃないんだとオーナーからはなじられる。
でも、シーズンを戦い終えたささやかな満足感がそこには生まれる。
もしかしたら選手達もそれを一緒に喜んでくれるかもしれない。共に祝杯を上げられるかもしれない。
そしてその選手たちは少しずつ変わっていく。
君の哲学が浸透していく。
自信がついていく。
顔つきが変わる。言動が変わる。行動が変わる。
彼らは自律的になっていく。
君は時折り指示を出すだけでいい。
後はじっとベンチで暇そうにコーヒーでも啜っていればいい。
もちろん理想とは程遠い。優勝は望めないだろう。
でも一部のファンは君の戦い方を見つけてくれる。
他チームの物好きな監督は君に賛辞を送ってくれる。
そのサッカーに宿るポリシーに拍手を送ってくれる。
そこでようやく君は気づくんだ。間違ってなかったんだって。
1部残留を目指そう
みんなを満足させることはできない。いつまでも批判の方が多いのは変わらない。
育てた選手たちですら、相変わらず陰口を叩き続ける。
そこで心が折れてしまうかもしれない。
選手時代の栄光に浸りたくなるだろう。
「自分でやった方が断然早いわ」って何度も思うだろう。そして実際にやってしまうこともあるだろう。
だからそんな過去の自分に向けて僕はこの文章を書いている。
曲がりなりにも5年間は監督を続けることができた(これからも続けられるかはオーナー次第だけれど…)。
僕が書くものは世間に溢れる意識が高い人達のマッチョなマネージャー論ではないかもしれない。
海外リーグで戦う人たち向けのようにカッコいいものではないかもしれない。
ただ国内1部(2部?)で戦い続ける為の方法論。
マネージャーとしてのささやかな楽しみを感じる為の方法論。
それを備忘録として書いていこうと思う。
もしあなたが年若く中間管理職になって、胃の痛い眠れない夜を過ごしているのなら、どこかしら参考になる部分があるはずだ。
そうなればとても嬉しい。
そうなることを願って色々と書いてみようと思う。
それではまた。
いい仕事をしましょう。
編集後記
マネージャーの仕事は本当に多面的なので、どうやったら上手く伝えられるのか悩んで、この文章を書きました。
読み返してみるとかなりカッコつけた文体になっているので、だいぶ恥ずかしいです(笑)。
ただ内容としては日々結構感じていることに近いと感じています。
もちろん僕自身がサッカーが好きなこともありますが、サッカーの監督が書いたノンフィクション本は、マネジメントを行う上で非常に参考になりました。
あれだけ個性の強い一流プレーヤーたちを束ね、モチベートしてきた人達の経験談だから当たり前なのかもしれませんが、その辺のマネージャー本よりもよっぽど役に立ちます。
もちろん野球とか他のチームスポーツでも参考になると思います。
気になった方は読んでみると良いと思います。
少なくとも僕にはしっくりと来たので。