あちらを立てればこちらが立たず
バランスを崩せば崖下まで真っ逆さま
マネジメントとはバランスを取る仕事なのだとつくづく実感する。
全員が喜ぶような改善策なんてないのだ。
どちらかを改善しようとすれば、どちらかから反発が生じる。
ヤジロベーのように両手を伸ばしながら、細い橋を渡っていく。
それがマネジメントという仕事である。
ちょっとでもバランスを崩せば崖下まで真っ逆さまだ。
そして崖下には猛獣たちが舌なめずりしている。
今日はそんなことを書いていく。
不満は絶対になくならない
以前に書いたことでもあるけれど、不満というのは絶対になくならない。
これはマネジメントにおいて必ず押さえておかなければならない基本事項だ。
自分自身もそうであったけれど、初任マネージャーは不満を「なくそう」とすることで失敗してしまうことが多い。
人間が集まれば、不満が生じる。
当たり前のことだ。
それを「なくそう」とするのは自殺行為である。
不満の結び目を見極める
そうではなく、「バランスを取る」という感覚でそれに接することが肝要だ。
これは想像してもらえば簡単にわかることだけれど、みんなそれぞれの立場や事情があって、それに基づいて発言をしている。
必ずしもセクショナリズムとは言えないまでも、不満というのは個人ないしは集団における何らかの利得(損失)から生じるものだ。
そして、どんなに「組織の為」というお題目を掲げている声明であっても、完全に中立的な立場から発言がなされているということは稀だ。
部下の数が多ければ多いほど、この「不満の糸」は複雑になっていく。
その結び目を見極めて、対処した方が良いのか、そのままでも構わないのかを日々判断していく。
対処するのが良いわけでも、放っておくのが良いわけでもない。
ケースバイケースとしか言いようがないのだ。
そのバランスを適切に取っていく。
それが本当に難しい。
ただ地下に潜っているだけなんて場合も…
うまく対処したかな、とマネージャーが思っていても、ただ単に地下に潜っていっただけで、それが時限爆弾のようにいつか爆発するだけなんていうことはザラにある。
魑魅魍魎の世界。
現場というのはそういう泥臭い場所だ。
そのようなにっちもさっちもいかない状況を何とか束ねながら、成果を上げるべくチームを導いていく。
そしてそのような見えない努力というものは評価の対象ですらない。
厳しいけれどそれが現実である。
絶妙なバランス感覚の中で働いていく
コンサルや本社上がりの人が現場を変えることができない(難しい)のは、このような泥に塗れた経験が乏しいということがあるのだと思う。
理想も理論も大事だ。
でもそれは乾いているものでもある。
机上の空論とは言えないまでも、現場の人間からすれば、「そんなことはわかっている」ものである。
それでも変わらないから難儀しているのだ。
その「あわい」みたいなものを埋めていく為には、この絶妙なバランス感覚が求められる。
片方の火を消しながら、もう片方にも目を配る。
しばらく巡航させた後で、また見回りに行く。
そういう日々のメンテナンスの上に、成果というものは築かれていく。
好かれるということはそのカウンターもあるということだ
これは八方美人とはちょっと違う概念だと僕は思っている。
八方美人はみんなに良い顔をすることであるが、僕の場合はみんなに嫌われないくらいで構わない、というのがその違いだ。
好かれる必要はない。
普通で良いのだ。
というか、一方に好かれるとそのカウンターが必ずあるので、それも慎んだ方が良いとすら思っているくらいだ。
もちろん全員と等距離ということはあり得ないけれど、このようなバランス感覚がなければチームの意識は内向きになってしまうのだ。
嫉妬や妬みや足の引っ張り合い
これは人間の本当に面倒くさいところで、近い距離の人間との相対的優位性を確保することで快感を得る、というのが大方の人間の行動特性としてある(俗に言うマウンティングというものだ)。
マネージャーもその対象としてなりうるのだ。
マネージャーからの「相対的寵愛具合い」を競うメンバーは本当に多い(はっきり言って下らないし、どうでもいいことだけれど、これが現実だ)。
どう考えても「贔屓」ではない行為であっても、「贔屓だ」と言われたりする。
嫉妬や妬みや足の引っ張り合い。
それを完全に排除することは難しいけれど、出来るだけ少なくしなければ、チームというのは前に向いていかない。
簡単なようで難しいこと
もちろんマネージャー自身のキャラクターによって、こういう事象への対処方法は異なると思うのだけど、僕の場合は「無関心」という態度によってこれを乗り切ることが多い。
先述したように、僕は心からこういう事象を下らないものだと思っているし、他人との相対的なポジショニングに全く興味がない。
それよりも面白いことや楽しい仕事をしたい。
でもチームという単位で働いている以上、どうやってもこのような事態は生じてくる。
そこで重要になるのが冒頭に挙げたバランス感覚だ。
みんなを喜ばせよう、みんなに好かれよう、とするから失敗するのだ。
そういうものだ、という割り切りをする。
嫌われたら嫌われたで構わない、という開き直りをする。
不満なんてあって当然なのだ。
大事なのは成果を出すこと。
そこにメンバーの意識を向かせること。
簡単なようでとても難しいこと。
でもそれができなければ、マネージャーは務まらないのだ。
それではまた。
いい仕事をしましょう。
あとがき
僕は人間の感情にとても敏感な人間であると思っています。
そしてそうであることは、とても疲れることでもあります。
HSPという言葉が市民権を得ているかどうかはわかりませんが、少なくともこのような傾向を持つ人がマネージャーを務めることはかなりの困難を伴うことは事実です。
それこそマネージャーに成り立ての頃は、メンバーの感情の機微の調整をしなければならないと思っていましたし、その方が望ましいとすら考えていましたが、現在はむしろそのままにしておいた方がいい、というスタンスで仕事をすることが多いです。
あらゆることに誠実に対処したところで、身勝手な人間は身勝手な不満を言い続けるものです。
それにかかずらうよりも、成果に焦点を向けさせることに専心した方が結果的に上手くいくことが多いです。
人間関係に疲れている方は参考にしてみて下さい。