学習性無力感が組織を殺していく
自分は無力であるという経験値の蓄積
何をやっても無駄だ、という諦めが職場には蔓延している。
特に組織が大きかったり、官僚的であったりすると、余計にそのように感じられがちだ。
入社した頃には意欲に燃えていた若者も、様々な抵抗にあう中で、組織を変えることなんてできない、と思うようになる。
上司がパワハラ系であれば、厳しい言葉を浴びせられたり、罵倒されたりするような事態も日々続くことになる。
それに対して、自分はもちろん、周囲が何かしてくれることはない。
ただ、毎日、罵倒され続けていく。
それを変えることはできない。
そのようにして「自分は無力であるという経験」が積み重ねられていく。
そしてだんだんとそのような状態が当たり前だと思うようになる。
逃げることはもちろん、疑うことすらできなくなる。
それが日常となる。
このような状態を学習性無力感と呼ぶ。
感情を殺して、心を殺して
多かれ少なかれ、多くの(日本の)ビジネスマンはこのような思いを抱えながら仕事をしているのだと思う。
自分は何も変えることができない。
自分は大きな組織の歯車の一部に過ぎない。
何をやっても無駄。
そのように感じているのだと思う。
もちろん心の奥底には、何か新しいことをやってみたい、とか、現状を変えていきたい、という思いがくすぶっている人もいるだろう。
でも、電車に乗り、会社に着き、デスクに座ると、そんなことは不可能であると悟る。
空気や同調圧力がそこにはあるから。
みんなが同じ顔で同じように働くことが是とされているから。
淡々と、毎日同じ「タスク」を繰り返していく。
できるだけ波風立てずに、終業時間が来るまでじっとしている。
その時間が過ぎると、「本当の自分」を取り戻せるような気がする。
仕事における自分は「仮の自分」であって、そこにおける活動は、あくまでも賃金(生活の糧を)得るための行為に過ぎない、そうやって自分に言い聞かせる。
自分を「羊化」させていく。
できるだけ傷つかないように、何も考えないようにする。
何も感じないようにする。
感情を殺す。
自分を殺す。
「無」が表情を占めるようになる。
虚無的なチームを変える為に
マネージャーが難しいのは、このような状態がデフォルトである組織の中でパフォーマンスを高めなければならない、という点にある。
もちろん、社風やそこで働いているメンバーの属性によって濃淡はあるだろう。
奇跡的に意欲の高い、革新的な感性を持つ部下が多いチームもあるだろう。
でも、僕の経験から言うと、圧倒的にそうではないことが多い。
僕の声は宙に舞い、チームの誰からの反応もない状態から、マネジメントを始めることが殆どだ。
返事をすることすら、YesかNoかの反応を示すことすら、できない状態からチームビルディングを始めていく。
会議では下を見たまま、じっと時が過ぎ去るのを待っているメンバーたち。
その中で虚しく響く僕の声。
そんな経験を何度もしてきた。
そして、そういうチームを変えてきた。
それは簡単なことではない。
でも、できないこともない。
心理的安全感を生むために部下の提案を肯定する
詳しくは僕の他のブログを読んで欲しいけれど、ここでは「心理的安全感」を作る、ということを書いてこの話を終えようと思う。
マネジメントのスタンスとして、「肯定する」という状況を作っていくことが、この「心理的安全感」を生んでいく。
くだけた言葉で言うのであれば、メンバーの話に「ノる」ことから始めていく。
メンバーのレベル感にもよると思うけれど、大抵の部下の提案というものは、「うーん…」「イマイチ…」ということが多いはずだ。
そして、こちらも良かれと思って、「ここをこうした方が良い」とか「こういうやり方の方が良いんじゃないか」とか言ってしまったりする。
そうすると、せっかくマネージャーが変わって、ちょっとやる気を見せたメンバーもまた元通りになってしまう。
そこをぐっと堪えて、とりあえずやらせてみる。
もちろん、大きな損失を生む可能性が高い話であれば事前にアドバイスはすべきだと思うのだけれど、そうでないものはそのままの状態で失敗させてみる。
これはマネジメントの期間(自分に与えられた期間)にもよるかもしれないし、早期にどうしても成果を出さなければならない状況か否か、によって異なる手法であるが、ある程度時間が貰えるのであれば、早い段階でこれをさせておくと、尻上がりに成果が上がるようなチーム作りができるようになる。
これは単純に「失敗をしてもいいのだ」というメッセージであり、「自分で考えてもいいのだ」というメッセージであるからだ。
リスクを取らなければリターンはない。
自分で考えなければ創意工夫はない。
仕事は与えられるものじゃないし、全部ではなくとも一部は自分の力でコントロール可能であるものだ。
そんな当たり前のことを実感してもらう。
自分達は自分達の状況を変えることができる、という小さな自信
それぞれのメンバーがそのようなことを感じられるようになると、チームとして失敗しても良いのだ、という雰囲気が醸成されてくる。
そうなってくると、チームにおける会話が率直なものになってくる。
防御姿勢を取らないで、話をすることができるようになってくる。
本質ベースでのやり取りが増えてくる。
こうなれば、あとは巡航速度を維持すればいい。
もちろん日々色々な問題は起こる。
でも、それは自分達の力で変えることができる。
そういう本当に小さな自信がチームの力になっていくのだ。
それではまた。
いい仕事をしましょう。
あとがき
出世というくびきから逃れると、仕事は楽しくなります。
もちろん向上していこうという意欲はとても大事ですが、そこに囚われてしまうと視野が狭まってしまって、結果的にいい仕事はできなくなってしまいます。
いい仕事ができなければ、当然出世もなくなっていまいます。
禅問答のようですが、出世しないように仕事をすることが出世に繋がる、みたいな感じで仕事をすることが、組織と上手に付き合っていく為には必要な気がしています。
厳しいことを言うと、組織の言う通りにやらずに、自分勝手にやって失敗した場合にはそれ相応のしっぺ返しが来るものです。
そのリスクを背負っても構わない、という開き直りができる者だけが、仕事を面白くできると僕は考えています。
組織のせいにするのは簡単ですが、その中でもできることはきっとあるはずです。
依存的にも独善的にもならずに、できることを日々淡々とやっていきましょう。