落としどころを探る能力

UnsplashSamuel Castroが撮影した写真

マネージャーの基礎筋力は折衝能力だ

上手に対話する能力が落ちている。

そんなことを思う時がある。

若手マネージャーの育成・指導について、業務の傍らお願いされる時がある。

その際に今日のテーマのようなことを思うのだ。

マネージャーのスキルには様々なものがあるけれど、基礎筋力がなければ、それらのスキルは有効とはならない。

土台の部分となる基礎筋力、それが対話能力であり、折衝能力である。

マネジメントという仕事の「体力配分パイチャート」を作るなら、多くの体力はこの折衝(落としどころを探る)に注がれることになる。

人間が集まると対立が生まれる。

対立とはいかなくても、齟齬意見の食い違いが生じる。

それを上手に収めたり、着地させたりするのが僕たちマネージャーの仕事である。

今日はそんなことを書いていこうと思う。

議論が「表」に出てこないことが多い

Aが表明する意見とBが表明する意見が食い違うこと。

仕事をしていればよくあるシチュエーションだ。

以前であれば、このAとBというのは、それぞれの意見を開示し合い、一旦はある種の口論のような状態になることが多かった気がする。

議論が表に出ている、というか。

でも、現代の(特に若手)マネージャーは、これを表に出し、交渉することが下手であるように感じる。

いや、別に「口論しなさい」と言いたい訳ではないのだ。

ただ、上手に自分の主張を開示し、相手の考えを受け入れて、着地点を探る、ということはマネジメントという仕事をする上で必要不可欠で、それができないとこの先結構困るよ、ということを思うのである。

落としどころを探る為に対話をする

僕からすれば、AもBも間違ったことは言っていない。

それぞれの想いの源泉はまっすぐで、素晴らしいものですらある。

でも、だからこそ対立するとも言えるし、折衷点を探るのが難しいとも言える。

どちらの考えも正しいから。

でも、そのままの状態では議論は平行線のままだ。

だから僕たちは対話を行う。

その議論がどのような想いから生じているのかどのような考え方を経てそのような結論に至ったのか、ということを順序立てて説明する。

同様に相手の意見も傾聴する。

そして落としどころを探る。

こんなイメージ(僕からすれば当たり前のこと)が上手く共有されないのである。

「相手の気分を害したくない」という強い感情

乱暴な言い方をすれば、「対話するということは喧嘩すること、相手の気分を害することに繋がるから、それはできるだけやりたくない、でも自分の主張は通したい」というような印象を受けるのである。

だから、AもBも直接的な(踏み込んだ)話はしない。

表面的な話に留まる。

でも、裏側ではそう思っていない。

もっと強い感情を持っている。

それを陰口のように言ったりもする。

さて。

そのままでは何も解決しませんぜ?

若者は本当に良い子なわけではない

以前にも書いたと思うけれど、若者たちが「良い子症候群」に囚われていることがこの問題の1つの要因であるような気がしている。

そして、僕たちおじさんは、彼(彼女)らが本当に良い子なのではないか、と錯覚している。

でも、当たり前の話だけれど、世代がちょっと変わったくらいで、急に人間が善良になる訳がない。

相応のドロドロとした感情を持っている。

ただ、表には出さないし、上手に繕うことができる。

それはプレイヤーとしてなら、何とか通用するのかもしれない。

プレイヤーはあくまでも個人ベースで仕事をするから。

でも、マネージャーとなるとそうもいかない。

ある種の「寝技」も習得する必要があるのである。

着地させる能力

僕はある若手マネージャーから、議論の取りまとめを任され、それが大いに紛糾した後、上手に着地させた時に、大いに感心されたことがある。

「普段からメンバーの色々な愚痴や不満を聞いているから、そういう振舞いができるんでしょうね」と。

そうなのだ。

僕がマネージャーを長く経験してきて誇れる部分があるとするなら、「人間は集まると対立が生まれる」ということをフラットに受け入れられる、という点だと思っている。

そこには感情の揺れはない。

そういうものだ(デフォルトである)、と思っているのである。

それが出発点であって、「さあどうやって着地させるか」というところに僕の意思は向いていく。

しかし、多くのマネージャーを見て思うのは、その紛糾自体を直視してしまって、そこで硬直してしまう、ということである。

双方の(もしくはそれぞれの)意見を聞くまでは誰でもできる。

でも、解決策というか着地点というか、皆が多少の不満を感じながらも、まあ納得できるよね、というような状況に持っていくには、それなりの経験と腕力が必要となる。

表面上にこやかに議論を進めるだけではどこにも辿り着かない。

だからと言って、バチバチにぶつかり合っても何も生まれない。

さて、というのが今日の話なのである。

意見を通すためには

若手が強い意見を持つのは構わない。

でも、それを実現まで持っていくには、意見が強ければ強いほど、「丸める」能力が必要となる。

それができないなら、その強い意見はただの「宝の持ち腐れ」である。

そこまでできて、僕たちはようやくスタートラインに立てるのだ。

それではまた。

いい仕事をしましょう。

あとがき

立ち技寝技。

どちらもできるのが最強です。

でも、多くの若手マネージャー達は立ち技に特化しすぎているような気がしています。

そして、異なる意見を上手に着地させる経験があまりにも少ないように感じています。

「感じ良く振舞う」なんて簡単。

僕は多くの「良い子」たちを見るたびにそう思います。

嫌われるようなことを言いながら嫌われない為には、嫌われる勇気を持っていることが必要です。

強い意見は同じくらいの反発を生みます。

それをねじ伏せるくらいの寝技を身に付けていきましょう。