手取り足取り教えない

UnsplashJakob Ben Cottonが撮影した写真

自分が成長した時ってどんな時?

部下指導について聞かれることがある。

その際に僕が思うのは、「あんまり指導し過ぎてもなあ…」ということである。

もちろん、本当に新入社員中の新入社員というか、ザ・駆け出しの頃には、ある程度まで教えることは必要である。

もっと言えば、具体的な指導を欲しているのが若い世代の特徴であるとも言える。

彼(彼女)らからの定番の文句は、「指導されていない」というものでもある。

さて、ここで問題提起を。

「自分が成長したと実感した時って、手取り足取り教えて貰った時でしょうか?」と。

そういう人もいるのかもしれない。

でも、僕の場合は違うし、多くの部下育成を行ってきた経験を踏まえても、たぶんそれは正解とは言えない。

今日はそんな話だ。

部下の伸びようとする力を信頼しているか?

今日のテーマを置換すると、「信頼」ということになると僕は思っている。

要は、部下の伸びようとする力を信頼しているか否か、ということである。

僕は信頼している。

だから、教え過ぎない。

そこが今日の話の要点である。

自己信頼感が高ければ、未知の仕事に取り組むことができる

これは何も部下指導に限ったことではない。

多くのマイクロマネージャーたちの元で部下が成長しないのは、(もう少し正確な書き方をすると、そのマイクロマネージャーの下で働いている時には有能であるように見えるのに、他の部署に異動するとてんでダメになってしまうのは)部下の自己信頼感が低いからである。

自己信頼感?

そうなのだ。

自分のことを自分で信頼できているかどうか、というのは、未知の仕事に取り組む時に重要な要素であると僕は思っている。

よくわからないけれど難しそうな仕事が来た時に、「まあ今まで何とかなったし、今回も何とかなるっしょ」と楽天的に思えるか否か。

それが部下の成長速度に大きく関わってくると僕は思っている。

試行回数が増えれば、得られるデータ量が増える

それはなぜか?

未知の仕事に取り組む回数(試行回数)が単純に増え、そこで得られる経験(データ)が、自己信頼感が低い部下よりも多いからである。

裏を返せば、自己信頼感が低い部下はこの種の仕事に手を出そうとしない。

「既知の仕事」というか、自分でできそうな仕事(うまくやれそうな仕事)にしか取り組もうとしないので、それだけやっている際には有能に見えるが、そこから離れるとどうにもならないことになってしまうのである。

「自分で仕事をやり遂げた」という感覚を数多く経験をさせる

では、部下の自己信頼感を高めるにはどうしたらいいのか?

それが今日のテーマに繋がってくる。

それは、「自分で仕事をやり遂げた」という感覚(勘違いを含む)を数多く経験させるということである。

そしてその為には、教え過ぎてはいけない。

もう少し僕なりの表現に置き換えるなら、「余白」を残しておく。

これが部下指導の要諦である。

野放しと放牧の違い

感覚的なものにはなってしまうけれど、上司が部下を信頼しているかどうか、というのは、部下にも伝わるものだ、と僕は思っている。

そしてニュアンスになってしまうので恐縮であるが、信頼していることが伝わっていれば、冒頭に書いたような「教えて貰っていない」という不満が出ることはない。

そういう意味では、「放任」とはちょっと違うのだ。

どちらかというと、「放牧」に近いかもしれない。

広い牧場を僕はよく例えとして使うのだけれど、柵はあるけれどそれは遠くて普段はあまり意識されない、でも近づいてみればきちんと柵はある、そんな広い牧場の中で、彼(彼女)らに自由に仕事をさせる、というのが僕のやり方である。

これは「野放し」とは違う。

でも、だからと言って、養豚場(養鶏場)みたいな、完全管理された空間ではないのだ(言い方は悪いがマイクロマネージャーのやり方はこれだ)。

行きと帰りに話をするくらいでいいのでは?

僕は彼(彼女)らを朝牧場へ放し、夕方迎えに行く。

その道中で話をしたりもする。

今日あった出来事を聞いて、感想を言ったり、アドバイスを言ったりする。

時にヒントみたいなことを言ったりもする。

それくらいでいいのだと思う。

適切な難易度の課題

冒頭にも書いたが、人が成長するのは、自分が成長したいと思った時である。

そして自分が成長したいと思うためには、それなりの難易度の課題が目の前にあることが必要となる。

今の実力では難しいが、適切な努力をすれば何とか自力で超えられそうなくらいの難易度の課題。

それを部下の成長に合わせて、適切に設置していくこと。

後は勝手に試行錯誤を、どうぞ

簡単過ぎてもいけないし、難し過ぎてもいけない。

マネージャーが手を出し過ぎてはいけないし、口を出し過ぎてもいけない。

その繰り返し。

それができれば、部下は勝手に難題にぶつかり、格闘し、成長していくのである。

未知の仕事に取り組む為に必要なマインドセット

そして、繰り返しにはなるが、そこで得られた知見というのは、その部下の自信となる。

自分で何とかやり遂げることができたという自己信頼感は、その後の部下の仕事に対する姿勢に大きな影響を与える。

特に現代のような、未知の仕事がどんどん湧き出てくるような時代においては、このマインドセットを持っているか否か、というのは将来を大きく左右する。

仕事とはどれだけ手の中にデータを持っているか、ということが大きくその成果を左右する。

それが一次情報であれば、その威力は絶大だ。

それではまた。

いい仕事をしましょう。

あとがき

既知の問題に対する回答をする(だけ)なら、AIの方が優秀である。

僕はそんなこと考えています。

未知の問題に取り組むこと、そしてその問題設定すらしてしまうこと。

それが現代の(そしてきっと未来の)仕事には必要です。

そしてその為には未知の問題を恐れないマインドセットが必要で、そのマインドセットを得る為には、自分で仕事をやり遂げたという実感が必要です。

適切に放牧していきましょう。