減点主義から脱却する
「面白くなってきた」と呟けるような楽観性
マネージャーに向いているかどうかを計る資質の1つとして、楽観的か悲観的か、加点主義か減点主義か、が挙げられる。
当然、楽観的・加点主義、の人がマネージャーに向いている。
それはなぜか?
担当するチームによってもちろん違うとは思うが、大抵のチームは何らかの欠点を抱えている。
その欠点に対するアプローチの仕方として、「まあ仕方ないか」と片目を瞑るか、「ここが悪いからダメなのだ」と結論付けるかでは、チームの方向性が大きく変わる。
もう少し大きな話をするなら、これは人間観みたいなものが関係してくるのだと思う。
僕は人間というのは不完全でどうしようもないものだと思っている。
そしてその不完全性の中にこそ面白さがあると思っている。
だから大抵の物事については、「ああそれね、そう来ましたね」というようなある種の開き直りのような心持ちで臨むことができる。
「面白くなってきた」というセリフを脳内に浮かべながら、不謹慎ではあるものの、少しだけワクワクしている。
それはトラブルが頻発するマネージャー業務においてはとても有利な点であると考えている。
人を長所で判断するか、短所で判断するか
これはチームメンバーの特徴を把握する際にも有用だ。
ある人の長所を見るのか、短所を見るのか、では出来上がるチームの概念(哲学)のようなものが変わってくる。
もちろん欠点が気にならない訳ではない。
欠点というのは嫌でも目に付くものだからだ。
でもそこに囚われてしまうと、その人の長所も見逃すことになる。
よく言われる話だと思うが、長所と短所というのは相反するものであることが多い。
それは大雑把に言ってしまえば、捉え方の問題に還元できる。
「細かい」というのは「緻密」と言えるし、「雑」というのは「泰然」と言えるし、「ドジ」というのは「前向き」と言うことができる。
もちろん瞬間的には「短所だ」というのが頭に浮かぶのだけれど、それを考え直すというか、その短所を最小限に、できれば長所に変えるにはどのようにすればいいのか、というように頭を切り替えるトレーニングをする。
ここにマネジメントにおける時間軸の問題が関係してくる。
半年とか1年というような短期のみのマネジメントではなくて、中長期的に安定したチームを作るためには、長所を何とか探し出すことが不可欠だ。
短期的には短所というのは抑制できても、その短所はその人の本性なので、どちらにせよ元に戻ってしまう。
裏を返せば、長所もその人の本性なので、それを自然体で活かす方がチームとしては安定する、ということだ。
僕は自分の上司も含めて、人を長所で判断するか、短所で判断するか、によってその人の器の大きさを測ることにしている。
短所ばかりあげつらう人は、「ああ、その程度の射程しか見えていないのだな」と思うことにしている。
スマートで小綺麗なチームのパフォーマンスが上がらないのはマネージャーの人間観のせいかもしれない
このような減点主義を中心にマネジメントをすると、人はできるだけ欠点を晒さないように、できるだけスマートに見えるように仕事をするようになる。
そして本当に大事な情報は地下に潜ってしまい、マネージャーのところに上がってこなくなる。
マネージャーはなぜチームが上手くいかないのか意識できないまま、チームは迷走を続けることになる。
表面的にはスマートで綺麗に見えるチームのパフォーマンスが上がらないのは、裏にこういう考え方があることが多い。
みんながみんなラインの内側で仕事をしているからだ。
常にその線を意識しながら、それを踏み越えることがないように仕事をしているからだ。
そしてマネージャー自身は、自分がメンバーを委縮させてしまっていることに鈍感であることが多い。
どんなに綺麗な言葉を並べていても部下が付いて来ないのは、こういう人間観みたいなものが底流に流れているからなのに、それを自覚できる人はとても僅かだ。
大企業病というか、組織が大きくなればなるほどこの傾向は顕著に現れる。
それは根底にこのような悲観的減点主義があるからだ。
口では「失敗してもいい」ということを言うのは簡単だけれど、本当に失敗した時にそれをカバーできるくらいの自信がなければ、その覚悟がなければ、簡単に口にしてはいけないと僕は思っている。
そういう言行不一致が部下の気持ちを離れさせていくのだ。
悲観の向こう側にある変態的楽観性
これは難しいのだけれど、マネージャー自身が悲観的減点主義者であるのであれば、無理やり楽観的加点主義者を装うのは得策ではない、ということにも繋がってくる。
人間の本性は簡単には変えられないし、それは必ず露見する。
さっさとマネジメントは諦めて、プレイヤーの道に進んだ方が良いかもしれない。
それくらい決定的な要素だと僕は思う。
もちろん人間なので悲観的になることはある。
でもその悲観と対峙した果てに笑いがこみ上げて来るという変態的楽観性がマネージャーには必要だ。
そういう風に仕事をしていると、部下達は簡単にラインを踏み越えて、思いもかけない成果を持ち帰ってくることが時々起こる。
それは本当に面白い体験だ。
数少ないマネージャーになって良かったことの1つ、醍醐味の1つだと思う。
それを信じてまた僕は今日も欠点に片目を瞑る。
それではまた。
いい仕事をしましょう。
あとがき
「人は長所で見ましょう」というのはやや教条的な含みを持った言葉のように捉えられるかもしれませんが、僕が言っているのはもう少し現実的な話です。
欠点だらけの部下ばかりのチームにおいて、欠点を指折り数えていても、先に進むことはできません。
それをテーブルに広げたところで、「では、どうするのか?」という発想は出てきません。
腕を組んで、途方に暮れてしまうだけでしょう。
机上の空論を振り回して空中戦に持ち込もうとするのは頭の良い人達の特徴ですが、そこには「じゃあ、今日どうすんの?」という行動に結びつくような言葉は含まれていません。
僕は現実的な地上戦を行うために、あくまでも相対的な長所(絶対的でなく)を組み合わせることしか方法がありませんでした。
腹が立つ日常の中にも、面白いことはたくさん転がっています。
そういうものを集めながら仕事をしていきたいと僕は思っています。