取り返しがつかないこともある

「速さ」はマネジメントにおいて長所になるとは限らない

マネジメント業務には地雷が無数にある。

大抵のものはリカバリー可能であるが、そうでないものもある。

それについて今回は書こうと思う。

マネージャーになりたてのことによく失敗したのは、レスポンスを速くし過ぎた、ということだ。

プレイヤーの時にはレスポンスの速さは長所となる。

相手が想像しているよりも速く早くレスポンスを返すのは営業の基本のキだ。

これがサービスの満足度を高める鉄則で、これに勝るものはないと言っても過言ではないと思う。

ここにあるのは相手の考えていることをある程度先回りして予測して、それが出てくるタイミングで打ち返す、それが良いことだ、という考え方だ。

それはことプレイヤーにとっては間違っていない。

仕事は単純、人間は複雑

でもマネージャーが同じような動き方をすると、それは時に大きな問題に発展することになる。

仕事は単純で、人間は複雑だからだ。

仕事というものは分解していけば、それぞれのものは1つのモジュールにすることができる。

それを1つ1つ終わらせていって、組み上げたものが完成物となる。

なので、一見複雑そうに見えるものも、部分部分への対処はそんなに難しくない。

そしてその部分を通過している最中はできるだけ高速で駆け抜ける方がよい。

わき目を振らずにゴールに向かって走ればよい。

でも人間は複雑だ。

少なくとも単線的ではない。

ゴールが前方にあるとは限らないし、そもそもそのゴールさえどんどん変わっていく。

行きつ戻りつしながら、時に立ち止まったりして、1歩1歩歩みを続けていく。

投げかけたボールが跳ね返っていくのか、その中に吸収されていくのか、予想もしない方向へ飛んでいくのか、それが常にわからない状態だ。

仕事は予測可能で、人間は予測不可能だ。

軽い気持ちで投げた言葉が、致命傷を与えてしまうこともある。

こちらとしてはそんなつもりがなくても、それは実際に起こってしまう。

それを全部防ぐことは不可能だ。

そしてそれを恐れていたらマネジメント業務なんてできなくなってしまう。

でもその発生確率を下げることはできる。

そのヒントは前述した人間は複雑であるという概念を持つことと、時間軸を伸ばすということだ。

速度を落とすことで見えてくる景色もある

後者についてもう少し詳しく説明する。

これは最近の僕がよく考えていることなのだけれど、マネジメントというものは原因と結果がつくづくわからないものだ、ということだ。

マネージャーをしていると、物凄くたくさんの言葉を発することになる。

1対1のこともあるし、1対多のこともあるし、公的にも私的にも、とにかくマネージャーはたくさんの言葉を部下に対して投げかける。

その1つ1つはある種無意識的なものだ。

それがどのような波紋をもたらすなんて、その時点時点で考えることはできない。

でもその言葉が集まったものがマネージャーになる。

その言葉をもとに部下達はマネージャーの行動を照合していく。

その掛け算の累積がマネージャーの人格として判断される。

ある時の言葉はその時には響かなくても、マネージャーの人となりがわかった時とか、部下が成長したタイミングで、すっと染みわたっていったりする。

そこには時間が必要だ。

拙速に物事を進めようとすると、どこかでその反動が来る。

一時的に良さそうに見える物事も、必ずその揺り戻しがある。

そしてそれが取り返しのつかないものであれば、再起不能となる。

往々にしてマネージャーはそれが致命的であることに気付けない。

だからできるだけ速度を落とした方がいいのだ。

仮にぶつけてしまったとしても、すぐに車から降りて救急車を呼ぶ。

それで傷が癒える訳ではないし、事故がなかったことにはできない。

それでも、だ。

そのまま通過していくよりはだいぶマシだ。

運転が上手くないことに対して自覚的になる

残念ながらマネージャーは完全ではない。

優良なドライバーとすら言えない。

ところどころで事故を起こしながら、それでも前に進んでいくしかない。

でもその1つ1つの事故に対しては自覚的であるべきだし、起こしてしまった事故に対しては誠心誠意謝罪するしかない。

そしてその事故をクリティカルなものにしない為には、とにかくスピードを落とすしかないのだ。

事象に対してレスポンスを早めるのでなく、その変化をじっくりと見極める。

脊髄反射的に対応するのでなく、熟慮の上でことを進める。

感情的に対処しない。

そう意識することで、大抵の大きな事故は防ぐことができる。

もしあなたのチームが上手くいっていないのだとしたら、あなた自身にその問題があるかもしれない。

無意識のうちに誰かを轢いてしまっているかもしれない。

恨みとまでは言えなくても、それに近い感情がチーム内に渦巻いているかもしれない。

それに対して自覚的であること。

それがマネージャーに必要だ。

ゆっくりと確実に歩いて行く

僕は何回かこの地雷を踏んでしまった。

それはひとえに僕の未熟さによるものだ。

それは今でも僕の心を確実に抉っている。

そのことを思い返すたびに、自分の至らなさに顔を覆いたくなる。

でもその自責の念が今の僕を確実に少しはマシなマネージャーにしてくれている。

僕はその後悔を両手に抱えながら、今日も仕事をしている。

リスクフリーなんてことはマネージャーにはないし、そうはなりたくないことも事実だ。

それでもそんな経験はできるだけ少ない方がいい。

地雷を踏む直前で足を止められたら、それより良いことなんてない。

前だけでなくて、足元も見る。

じっくりと歩いて行く。

はやる気持は禁物だ。

それではまた。

いい仕事をしましょう。


あとがき

「速度を落とす」という考え方は、プレイヤーからマネージャーになる時に必要な概念かもしれません。

プレイヤーにとって「スピード」はその価値を証明するものの1つですが、マネージャーにとっては必ずしもそうではありません。

「待つ」ということが絶対的に求められます。

当たり前の話ですが、部下はそれぞれ別の人間で、そこで流れている時間はそれぞれ異なるからです。

そのテンポに合わせながらも、全体としての調和を保っていく。

このバランス感覚がとても重要です。

射程を伸ばしながら、ゆったりと仕事をしていきましょう。