できない部下の使い方
できない部下がいることをデフォルトとする
綺麗ごとを抜きで言うと、できない部下は多い。
本当に多い。
そして、ただできないだけでなく、「すごく」できない部下も多い。
多くのマネージャーの悩みの大半はこの「できない部下をどう使うか?」ということだと思う。
上司からは「そういう奴を使うのがお前の仕事だろ!」と言われ、「結果を出せ!」と詰め寄られ、でも明らかに能力が不足している部下が目の前にはいて、「育てる」なんてどう考えても不可能だよね、と途方に暮れている人も多いと思う。
僕もマネージャーになりたての頃は大いに悩んだものだ。
「このメンバーでどうすりゃいいんだ? 無理じゃね?」と何度も心の中で叫んだものだ。
今だって時折思うことはあるけれど、正確に自分の感情を描写するとするなら、「それをデフォルトだと思って(割り切って)やるしかない」というものになる。
部下はできない。
それは揺るぎない事実だ。
そこからスタートしよう。
(所属している会社の規模や、入ってくる新人の人数や、中途採用者の比率等によって、できない部下の種類は変わってくると思うのだけれど、ここでは新卒社員を中心に書いていく)
資金不足のJ2下位の監督
僕はサッカーが好きなので、いつも考えるのは、「僕は資金不足のJ2下位の監督になったのだ」というイメージだ。
当然ながらそこには将来有望な新人は入ってこない。
J1のスカウトの目に留まらなかったような、「とりあえず」のレベルの選手だ。
成長の見込みも薄い。
既存メンバーもJ1で通用しなかったようなプライドだけが高い選手ばかりで、ロールモデルになるような人はいない。
むしろ変な癖がついていて、悪い見本になりそうな選手ばかりだ。
フロントやスポンサーはそれでも「J1昇格を!」と迫ってくる。
クラブハウスも貧弱で、スタッフも能力が乏しくて、サポーターの数も少ない。
普通にやっていたら、J1昇格はおろか、J3に転落してしまってもおかしくないくらいの戦力だ。
そんな中で、とりあえず戦っていく。
これが僕のマネジメントのイメージだ。
綺麗事抜きのマネジメント論
欧米かぶれや、MBA崩れは、大抵綺麗なことばかり言っているけれど(たぶん彼らは現場に立ったことがないのだろう)、大半のミドルマネージャーにとってはこれが現実だと僕は思っている。
理想論はあくまでも理想論でしかなくて、目の前に起こっている現実は目を覆いたくなるような惨状ばかりだ。
信じられないようなミスばかりおかすし、それを自分のせいだとは思っていないし。
本来であれば採用水準にすら達していないようなメンバーを何とか使っているのに、そんなことはお構いなしだし。
本来は採用や新人教育など、根本から変える必要があるのに、そういう面倒なことはなかったことにして、現場のマネージャーの責任にする。
できなければ、「次の」マネージャーに変えるだけ。
それが現実だ。
戦力を集中させること・やらないことを決めること
そんな環境でどのように戦うか?
答えは簡単だ。
戦力を集中させること。
やらないことを決めること。
これが弱者の戦い方だ。
カッコよい戦い方なんてできない。
綺麗なサッカーなんて不可能だ。
1対0(もしくは0対0)でひたすら勝ち点を積み上げていく。
これが基本だ。
勝てるサッカーを
勘違いしている人が多いので繰り返し言うけれど、大事なのは「やること」ではなく「やらないこと」を決めることだ。
フロントやスポンサーの言うことは封殺して、どんどん切り落としていく。
できないことはできないと諦める。
ここでカッコいいことを言ったり、しようとしたりしてはいけない。
ひたすら現実的に、できることだけをやる。
やりたいサッカーは諦めて、勝てるサッカーをやる。
そこに当てはまるような個人戦術を選手にも適用する。
「育てる」なんて考えないで、「できる」ことをさせる。
能力の平均値は総じて低いので、その中でできることにフォーカスして、その分野に特化させる。
それぞれのメンバーの長所だけを活用する(欠点には目を瞑る)。
できるだけシンプルに、やるべきことを明確化する。
それを反復する。
これで少なくともJ3降格はなくなるはずだ。
泥臭い戦い方を
そして不思議なことだけれど、こうやって勝ち点を積み上げていると、メンバーも少しずつ成長していく。
少なくともJ2で戦えるくらいの選手にはなっていく。
テクニックは全然ないけれど最後まで走れる選手とか、負け試合でも声は出せる選手とか、体だけは張れる選手とか、そういう泥臭い力強さがチームに出てくる。
そういう小さな自信が弱小チームには必要なのだ。
もちろんそういう選手達がJ1にスカウトされることはないだろう。
でもこのチームの中であれば活躍の場所がある。
僕の戦術の中では、その選手を効果的に使うことができる。
それが2年目以降の戦い方のベースになる。
黙々と勝ち点を積み上げる
僕は何も期待していない。
人間は成長するものだとか、信じれば報われるとか、そんなものは綺麗事でしかない。
ただひたすらに目の前の試合に集中しているだけ。
パーツを組み合わせて、勝ち点をもぎ取ることしか考えていない。
もちろんミスも多いし、失点も多いことは変わらない。
でも勝つことはできる。
外野は現状を何も理解せず、好き勝手なことばかり言っているのも同じだ。
スーパーな外国人選手は来ないし、フロントは相変わらず無能だ。
でも黙々と僕は勝ち点を積み上げていく。
「運が良いだけ」とライバルチームは言う。
「そうなんですよ」と僕はヘラヘラと笑い返す。
でも、本当は違うのだ。
それは運じゃない。
勝てる戦術を徹底しているのだ。
部下ができなくても戦うことは可能だ。
その特徴を組み合わせて、使い方を考えれば、どうにかすることはできる。
その価値を理解できる者は少ないけれど、僕はそうやって今日も戦っている。
それではまた。
いい仕事をしましょう。
あとがき
難しい議論になるので本文では書きませんでしたが、「解雇権がない」中で戦うというのはマネージャーにとってなかなか厳しいものだと僕は思っています。
「能力がない」部下というのは使い方があるのですが、「悪影響を及ぼす」部下というのは本当にどうしようもない。
こういう人はできるだけ早く排除したいのですが、これが日本企業ではなかなかできない。
僕はいつもそいつを首にして、その分の給料を他のメンバーに分けた方がチームの生産性は向上すると思っているのですが、そういう議論は過激だと受け取られるようです。
未だに勘違いしている人がいるので敢えて書きますが、仕事はボランティアではありません。
成果を出すことを前提として給料が払われている訳です(当然逆ではない)。
真っ当な成果主義に基づく、真っ当な仕事。
そんなものは夢想だと思いながら、今日も仕事をしていこうと思います。