知らなくていいことは知らなくていい

UnsplashSharon Waldronが撮影した写真

人間はドロドロとした部分を持っているから

「チームの生産性を上げる為には、マネージャーは部下のことをよく知らなければならない」

よく聞かれる話である。

もちろん、マネージャーが部下のことを何も知らないというような状態で、一定以上のパフォーマンスを上げることが難しいのは事実だろう。

でも、知りすぎてもどうかと僕は思うのだ。

当たり前の話であるが、部下も人間で、良い面と悪い面を持っている。

そして悪い面(それも結構悪い面)というのは、職場で普通に働いている場合には露見しないものでもある。

部下のことを本当に知ろうとすると、その悪い面も付帯してくるけれど、それでも知る必要がある?

今日はそんな話である。

部下と深い話をすることは、マネジメントに有効なのか?

コンサル会社がチームマネジメントについて話をしたり、研修を行ったりすることがある。

僕もマネージャーの端くれなのでそこに参加することになり、そこで感じたことが今日の題材の元となった話である。

その研修では、部下にインタビューを行いなさい、部下の話を傾聴しなさい、ということが喧伝されていた。

まあ、話としては間違っていない。

一定数の、殆ど部下と1対1で話したこともないマネージャーであれば、それは役に立つ話であるだろうとも思う。

その為のスキルなど、実際に使えるものがあったのも事実である。

でも、僕のように毎週部下と1対1で話をしているマネージャーからすると、「いやいや、その話って、表面的過ぎない?」と思うのである。

それも、ある程度の対人スキルがある僕のような人間が1対1で話をすると、結果的に聞かなくてもいいことまで聞くことになってしまう。

そして、そこにはドロドロとした負の感情が含まれていることが多い。

「それってマネジメントに有効ですか?」と僕は思うのだ。

おめかしされた自分

職場というのは、誰しもある種のペルソナ(仮面)を被っているものである。

「職業人としての私」という仮面。

当然ながら、それは「普段の自分」よりは、だいぶ「おめかし」されたものになる。

でも、それは別に悪いことではない。

というか、そうあるべきですらある。

「そのままの自分」「本来の自分」を職場で出されても困るだけだから(若者特有の「本当の自分」論については今日は割愛する。それはそれでマネジメントにおいて大きなトピックだとは思うのだが)。

暗部を知る必要ってある?

ただ、そうは言っても、人間である。

人間なので、様々な感情が職場においても渦巻いている。

その中で、時折暗部が顔を覗かせる。

「それって知る必要があるのだろうか?」というのが今日の話である。

正の面だけでなく、負の面も知らなくていい

僕は常々部下との関係性は「普通でいい」と言っている。

それはこのような問題が顔を出す可能性があるからである。

そしてもう少し詳しく書くと、いつも書いている「部下との関係性は普通でいい」という趣旨は、「良好でなくていい」という意味合いが強いと思うのだけれど、今回の話は負の側面もあまり知らなくていい、ということになる。

不満や愚痴、ヘイトの類、性癖、思想、嗜好、価値観、etc.

人間というのは本当に多様である。

プライベートならいざ知らず、職場において、それも上司と部下という関係性の中で、必要以上のことを把握することは、仕事においてもあまり良い影響を及ぼさない、僕はそう考えている。

距離が詰まると、開示されてしまう

もちろん、大抵の人はそこまで深く入り込めないのかもしれない。

自己開示の程度にはグラデーションがあって、建前と言えど上司なのだから、そんなに奥の方の話なんて聞かないし、出てこない、それもそうだと思う。

ただふとした瞬間にそれが顔を出す場合があるのだ。

自分の言葉が芯を食った場合など、ある程度の信頼関係が確立すると、このような状態になることがある。

距離感が近くなる、というか。

依存してくるなよ

もちろん、そこにポジティブな側面がないとは言えない。

でも、(いつも言うように)あまり距離が近くなってしまうのも考えものなのだ。

それは多くの人は「依存してくるから」である。

依存、という言葉が強ければ、「寄りかかってくるから」である。

「深い話を聞ける=良い上司」ではない

これは人間観にも繋がってくるのだろうけれど、僕のような人間不信一歩手前の人間からすると、多くの人たちは自立できない幼児のような存在であって、不用意に距離を詰めると面倒なことになる、と感じるのである。

特に職場においてはその傾向は強くなるし、用心してもし過ぎることはない。

少なくとも、「深い話を聞けた! オレはなんて部下のことを理解している良い上司なんだ!」とは思わない方がいい。

余計な面倒事に巻き込まれるだけだ。

知ったら対処しなくちゃならない

日本特有(?)のウェットな人間関係を職場にも適用しようとする姿勢。

まあ個人の自由ではある。

やりたい人はやればいい、それも事実だ。

だけど、知ってしまったら対処しなければならなくなる、ということを添えて今回の話を締めようと思う。

あなたはマネージャーであるから。

部下の不始末の芽は未然に防ぐ必要があるし、実際にコトが起きた時に、「知っていた」というその事実自体が不利な立場に追い込まれることになり兼ねないからだ。

嫌な話になった。

それではまた。

いい仕事をしましょう。

あとがき

暗部を開示し合うことで仲間意識を高める。

まあわからなくはありません。

でも、それは職場以外でお願いしたい。

それが今日の話です。

僕は仕事としてマネージャーをやっているだけです。

聞いてもいないことを開示するのはご勘弁。

適切に距離を取っていきましょう。