指揮と士気
プレマネの限界
僕は戦略をとても大事にしている。
というか、マネジメントという仕事は突き詰めれば自然とそこに行き着くものだと思っている。
もちろん、現場に入っていって、部下と共に汗水たらすということが必要でないとは言わない。
それは部下からの信頼を勝ち得る為にはあって然るべき段階ではある。
でも、いつまでもそれをやっていては、大きな組織を率いることはできない。
プレイングマネージャーの限界はそこにある。
部下の士気を高める方法は、何も現場で共に戦うことだけではない。
皆を率いる(指揮をする)、そのようなある種間接的なやり方だってあるはずだ。
今日はそんなことを書いていく。
現場は麻薬
現場至上主義。
マネジメントという仕事をやっていると、「やっぱり現場を知らなきゃダメだよね」という言葉に遭遇することになる。
それはその通りである。
現場の体温がわからなければ、そこで求められているものが読めなければ、戦略は筋違いなものになってしまう。
だから、時に現場に入っていって、一次情報として、それを自分のセンサーで感じ取る。
それは間違いなく必要なことだ。
でも、そこにいつまでも居座っていてはいけないとも思うのだ。
現場というのは麻薬でもあるから。
現場は楽しい。が…
自分で功を上げればドーパミンが出るし、「オレすげえええ!」と自己効用感は高まるし、言ってみれば楽しいことばかりである。
そしてその姿を見せることで部下の士気も上がるんですよ、と現場に立っていない他の人達に対してマウントを取ることもできる。
部下もそれに合わせて「マネージャーがいてくれると助かります!」なんてことも言うだろう。
「でも、本当にそうなのだろうか?」というのが今日の話である。
部下が本当に求めていることはそれなのだろうか?
部下の言うことはテキトー
ここで押さえておくべき大事なことは、部下の言うことは話半分で聞くべきだ、ということである。
彼(彼女)らは、(僕の経験上)その瞬間の感情で物事を言いがちである。
それも「自分にとって」という要素が強すぎる場合が多い。
物事を俯瞰から見たり、大局から考えたり、することは殆どないと言ってしまってもいいくらいである。
その部下の言うことを真に受けて、現場に居続けるのは、僕はちょっと違うのではないかと思うのである。
現場の奥地にはマイクロマネージャーがいる
もちろん、それで成果が上がるなら、求められている水準まで到達できるのなら、それでもいいと思う。
でも、組織が大きくなればなるほど、自分が現場に入ることで及ぼせる影響力は相対的に小さくなる。
結果として、求められる水準まで到達できないことが増えていく。
でも、成功体験がある(というかこれしか成功体験がない)マネージャーたちは、その未達の状況を克服すべく、更に現場の奥深くに入ろうとする。
部下の一挙手一投足まで管理しようとする。
こうしてマイクロマネージャーが誕生するわけだ。
部下の管理がきちんとできていないから成果が出ていない?
マイクロマネージャーは、部下の管理がきちんとできていないから成果が出ていないのだ、という考え方(思想)を持っている。
そして上記したように、現状として、求められている水準まで成果が出ていないとする。
その際、マイクロマネージャーはどのような行動をするのか?
部下を監視するのである。
監視状態で士気は上がるか?
さて、ここで考えて頂きたいのだけれど、このような監視状態で、部下の士気は上がると思いますか?
もちろん、部下のレベル感はあるだろう。
新入社員やそれに近いくらいの経験しかない社員にとっては、ある程度仕事のアウトラインを決めてもらうのは有難かったりするものだから。
でも、それ以上の社員にとってはなかなか厳しいのでは?
それもそのような体制がずっと続くということを考えたら、士気は上がりづらいのでは?
僕はそんな風に思うのである。
現場に入らなくても高い成果を上げる方法はある
でも、そんな風に想像してみれば当たり前のことを、多くのマネージャーは無意識にやってしまっている。
そしてそれも現場が望んでいるのである、と思い込んでしまう。
主客逆転というか、願望みたいなものが現実だと錯覚してしまうのだ。
僕はここに日本のマネジメントの問題点を感じる。
現場にいるマネージャーが偉くないとは言わない。
現場で部下と共に働くマネージャーが悪いとも言わない。
でも、そうじゃないマネジメントの手法はあるし、それで現場にいるマネージャー達よりも高い成果を上げることができるということは、もう少し認知されても良いような気がしている。
マネジメントの本質は戦略なのだ。
その戦略を実現する為に、時に自分が現場に入っていくことを否定はしない。
でも、逆は違う。
現場に入っていくことありきの方法を戦略とは呼ばないし、呼んではいけない。
あくまでもそれは手段に過ぎないのだ。
そしてできれば、そうじゃない戦略をまずは策定すべきなのだ。
戦略とはちょっと違う視点の提示
それは簡潔に言えば、部下の士気をどうやって上げるのか、ということになる。
ちょっとした視点の変更、アイディアの提示、それによって同じ仕事であっても見方が変わっていく。
そしてそれが日々の行動にささやかな影響を与えていく。
その累計がチームの変化に繋がっていく。
ちょっとした違い。
でも、それこそが重要なのだ。
それではまた。
いい仕事をしましょう。
あとがき
戦略、というと、何か壮大なものをイメージする人も多いようです。
でも、マネージャーレベルの戦略というのは、そこまで大きなものでなくて構いません(きちんとした定義で表現するなら、戦術に近いものでしょう)。
たとえて言うなら、「コロンブスの卵」のようなものです。
ちょっとした違い、でも、それによって世界の見方が変わるような。
後から考えれば、誰でも思いつくような(でも、その時点では誰も思いつかないような)。
そういう種類のものを僕は戦略と呼びたいと思っています。
ほんの小さなことで組織というのは変わりうる。
それがマネジメントの面白いところです。
戦略にこだわっていきましょう。