部下に感謝する

UnsplashAlexas_Fotosが撮影した写真

オレには無理っすよ…

よく出来たマネージャーや著名な経営者が書いた本を読むと、「部下に感謝しなさい」という言葉が出てくることがある。

「いや、オレには無理ですよ」

その言葉に出くわすたびに、そんなことをずっと思っていた。

それは何というか、キリストが言った「隣人を愛せ」「左の頬を差し出せ」みたいな響きを持った言葉として、ある種現実感を欠いたものとして、僕の中では分類されているものであった。

それが最近。

ちょっとずつではあるが、その言わんとしていることがわかるようになってきたのである。

もちろん、それらの本に書いてあるような本来の意味での感謝をしなさいというところまでは行ってはないのだけれど、その一端みたいなものはわかってきたような気がする。

それも、フリではなく、本心から思えるようになってきた、というか。

今日はそんなことを書いていく。

期待値の減少

普段から僕のブログを読んで下さっている方ならわかると思うけれど、僕の部下は優秀とは言えない部下ばかりである。

もう少し正確に言うなら、「どちらかというとダメ」「かなりダメ」の間くらいの部下が殆どである。

そんな部下と仕事をしている僕が、なぜ部下に感謝できるようになったのか?

それは期待値の減少(デフォルト値の低下)によるものだと僕は思っている。

たぶん冒頭に書いたような著名な人たちが言わんとしているのは、このような趣旨の話ではない。

本来の意味での「感謝」ということなのだろうと思う。

でも、僕が最近覚える感覚は、「こんなことができるはずがないと思っていたのだけれど、それがなんとできている。すごい。びっくりした。ありがたい」そんな感じなのである。

小さな絶望の日々

ここには消極的な態度が間違いなく存在している。

ハナから部下に期待していないから、その期待値を大幅に下げているから、ちょっとでもできるようになったりすると、喜びが倍増するのである。

そしてこれは一朝一夕でできるものではないことも付言しておく。

マネージャーになって8年、その間に様々な挫折を僕は経験してきた。

その顛末については、このブログ内にもたくさん書いてきたつもりである。

その紆余曲折の日々の中で、僕はだんだんと部下に対して期待を持つことはなくなっていった。

「こんなこともできないのか?」

「なぜこんな簡単なことができないのか?」

そういう毎日が続いた。

でも、そんなことを思っていても、小さな絶望感を重ねていっても、僕の仕事内容は変わらないし、部下の状況も変わらない。

相変わらず仕事ができないままである。

それに対して、いちいち失望したり、絶望したりしていても仕方がない。

その中で、成果を出すために(自分の精神状態を保つために)、僕は部下に対する期待値を下げていったのだ。

結果、今の僕は部下に殆ど期待していないマネージャーになった。

消極的感謝

これは一見すると、ダメなマネージャーのように見えるかもしれないけれど、利点もそれなりに多い。

ちょっとしたことが「ギャップ萌え」のように嬉しく感じるからである。

不良が子犬に優しくしていたら「なんていい人なんだ」と思うように、僕は部下がちょっとでも良いことをしていると、それだけでありがたく感じるような体になってしまったのである。

そういう意味では、僕のこの態度は(冒頭の著名な人たちのような)「積極的感謝」とは到底言えないものである。

消極的感謝。

でも、それだけでチームの運営はグッと良くなるのだ。

当たり前のことをありがたく感じる

何でもないような出来事。

ちょっとした仕事。

そういったある種「当たり前のこと」が、ありがたく感じるようになる。

もちろん、毎日がこう上手くはいかない。

絶望がデフォルト値であるように、日々とんでもないことが起こり、その度にその絶望の深さは更に深くなっていく。

でも、本当に極稀に、望外のことが起きたりする。

どうせできないだろう、と思っていたことが、なぜかできたりする。

当時の僕なら笑い飛ばすだろう

それはマネージャーになる前の僕からは考えられないような低レベルの話ではある。

当時の(鼻持ちならない)僕に今の僕がそのように伝えたら、鼻で笑われるくらいのものではある。

でも、それがあるだけで、そのちょっとした出来事ができるだけで、マネジメントという仕事はだいぶ楽しくなる。

そしてそれがチーム単位へ広がると、その変化の度合いは大きなものとなる。

ちょっとしたニュアンスでチームは変わる

チームは本当に些細なニュアンスによって変わるものである。

同じようなことであったとしても、その伝え方をちょっと変えるだけで、チームが劇的に変わることはあり得る。

それはちょっとした魔法のようなものだ。

それが時々でも使えるようになると、自分の考えていることがそのままの純度でチームに伝わるようになり、戦略が戦略として機能していくようになる。

歯車がカチッと噛み合うように、チームが動き出すようになる。

もちろん、そんな機会はそう簡単に訪れるものではない。

でも、日々のちょっとした喜び、そこで感じる感謝の中に、その芽は埋まっているのである。

それではまた。

いい仕事をしましょう。

あとがき

「部下を褒めなさい」という言葉はどのマネジメント本にも必ず出てくると言っても過言ではないくらい、使い古されたものです。

でも、本当にそれって有用なのか?

僕はそう思ってしまいます。

それよりは(以前に書いた)部下を「認める」とか、「感謝する」という方が僕には合っている。

というか、嘘がない。

僕は自分が求める仕事の水準を下げてまで、部下を褒めたいとは思いません。

自分に嘘をつくことが、僕のマネジメントスタイルの破壊にすら繋がってしまうから。

マネジメントのやり方は人それぞれです。

というか、その方がいい。

演技は必要ですが、魂まで売ってはいけません。

適度にツッパっていきましょう。