成功体験よりも失敗談を話そう

朝顔が成長するように

「部下が成長しなくて困る」というご相談を頂いた。

確かに部下は成長しない。

それはまず前提として捉えておく必要がある。

少なくともこちらが期待している速度タイミングで成長することはないのである。

朝顔の芽が出るのを期待して待っている時、毎朝その鉢植えに注視している状態の時には、まあ芽は出ないものである。

その時期が過ぎた頃、忘れた頃にふと気づけば芽が出ている、というくらいのイメージだ。

でも、少しでもその確率を上げたり、時期を早めたりする方法はないのだろうか?

水をやる頻度を増やす?

肥料を多めにやる?

まあそれも悪くないだろう。

でも、今日の話はそれとは逆で、失敗談を話した方がいい、ということを書いていこうと思う。

あなたの成功体験はあなただから成功できたのかもしれない

マネージャーの成功体験は文字通り成功体験である。

それも早期にマネージャーに登用されたような人の話は傾聴に値する。

間違ってはいない。

でも、それはあなたが優秀であるから(+運が良かった)、という留保条件がついていることは忘れてはならない。

誰もがそれを真似できる訳ではないのだ。

留保条件付き

そういう意味では、自分が経験し、上手くいったことを部下にもやらせようとするのは、必ずしも間違いではないけれど、あまり良くもない、と僕は思っている。

話を聞く部下からすると、「それは課長だからできたんですよね…」という「カッコ」が自然と付いてしまうからである。

どんなにその話が汎用的であっても、彼ら(彼女ら)は「別の世界の話」として受け取ってしまう。

それではあまり効果がない。

成功体験の共有? ふーん?

これは角度を変えてみればすぐに理解できると思う。

多くの企業では、成功体験を共有しようとする。

社内報みたいなもので、他の部署で上手くいったことを、水平展開しようとする。

その発想、考え方の方向性は決して悪いものではないと思う。

でも、どこかピントがずれている、と僕は思っている。

それはそこに属人性と運の要素が必ず含まれていて、それをきっちり切り分けることは不可能であるから(不可能だと話を聞いている側は思ってしまうから)である(もう少し言うと、大体が成功の要素を「盛って」もいる)。

少なくとも、僕はこの手の話を「ふーん…」くらいにしか思わない。

思想としては、「成功体験を共有し、全社的に上手くいくようにしたい」という純粋な善意から来ているのだろうけれど、何というか、シラケてしまうのである。

むかしむかしあるところに…

あなたの部下だってそうなのだ。

あなたの成功体験はそのままの熱量では届かない。

おとぎ話、昔話の類として、受け取られるのが関の山である。

それよりは、失敗談を話した方が何倍も役に立つ。

僕はそう考えている。

おかしみと悲しみと

失敗談には「おかしみ」がある。

クスっと笑えるような悲しさを内包している。

話の全体の論調が、「偉そう」でなくなる。

これが重要なのである。

上下関係をやめて地平を揃える

みなさんがどのようなタイプのマネージャーなのかがわからないけれど、少なくとも多くのマネージャーは、部下からは「上に」見られているものである。

その上下の関係性がある中で話をすると、そこには自然と「教える・教わる」という雰囲気が生じてしまう。

ましてや成功体験では、その雰囲気が増幅し、「拝聴」みたいな感じになってしまう(実際には聞き流されているのだけれど…)。

それをやめる。

地平を揃える。

思考のプロセスに手を入れる

その為には、こちらから「降りていく」必要があるのだ。

目線を合わせる為に、自分が失敗した経験を話す。

それは相手へのメッセージであることは確かなのだけれど、そのような直接的な雰囲気を緩和することができるのである。

付言すると、その当時考えていたことを添えるとより良いと思う。

というのは、成長が鈍化している部下というのは、「思考のプロセス」自体がイマイチであることが多いからである。

「思考のプロセス」というのは、有体に言えば「考え方」で、要は再現性を持たせるべく仕事に取り組むことができているか、その為にはどのように行動しなければならないのか、という根本の部分である。

門番をどかせる為に

部下指導というと、表面上に見える行動を正そうとすることが多いのだけれど、その行動というのは「思考プロセス」から生じているので、その「根」の部分に手を入れることが大事なのである。

ただ、この「根」の部分というのは、そう簡単にアクセスできるものではない。

門があって、門番が立っているものである。

それを解除させる。

その為に「失敗談」を使うのである。

思考プロセスが文化を作る

いい雰囲気の職場で部下が育つのは、部下の「思考プロセス」に良い影響を与える先輩なり上司が多いからである。

そしてその成長した部下が先輩になり、更に後輩に「思考プロセス」を伝えていく。

これがその職場の「文化」となる。

その下地を作るしかないのだ。

ローマは一日にして成らず

道のりは長い。

一朝一夕でできるものでは到底ない。

ただ、始めなければ進むこともないのである。

難しいことを考えず、大上段に構えることなく、失敗談を話す。

それだけで部下があなたの話を聞いてくれる確率は大きく上がる。

そうやって関係性を築き、「思考のプロセス」を伝えていくのだ。

それではまた。

いい仕事をしましょう。


あとがき

氷山理論なんて難しいことを言わなくても、行動の背景には隠されているものがあって、それに本人も気づいていない場合があります。

伸びない部下を伸ばす為には、この部分にアクセスし、思考プロセスを変えさせていかなければなりません。

それはとても困難なことですし、多くの場合はアクセスすらできません。

ただ、その確率を上げることはできます。

それが失敗談です。

成功体験は逆効果で、ガードを上げてしまうだけです。

門をこじ開け、中に入っていきましょう。