動くと動かすと勝手に動く

UnsplashNikolai Chernichenkoが撮影した写真

元部下からの相談

ある優秀な元部下が新しい壁に直面し、その相談に僕のところに来た。

以前から「将来こういう壁にぶち当たるからな」と予言した通りの事態が起こったので、僕に話を聞きに来たという訳である。

その壁というのは、「顧客のレベル(難易度)が上がり、今までの手法が通用しなくなった」というものである。

営業ではよくある話だ。

そして、その疑問に答えながら、「これってマネジメントでも一緒なのではないか?」と思ったので、それを今回は文章にしてみようと思う。

それでは始めていく。

顧客のニーズを適切に捉えられること

営業の初期段階で求められるスキルというのは、「瞬時に動く」ということだと思う。

これはスピードというだけでなく、何というか、相手が求めているところに動けること、を意味する。

そういう意味では、「適切に動く」という方が正しい表現かもしれない。

相手のニーズを適切に捉えることができること。

痒い所に手が届くこと。

これが営業の初歩である。

1つ目の壁

まずこの段階で、多くの営業マンはふるいにかけられる。

多くの人は相手のニーズがわからない。

わかったとしても、良きタイミングで動くことができない。

ここに1つ目の壁がある。

顧客のニーズに適切に応えるだけではダメ

それを乗り越えた後、今度は違う壁が出てくる。

冒頭の彼が相談に来たのがこの壁である。

それは「顧客のニーズに適切に応えるだけではダメ」というフェーズである。

顧客のレベルが上がると、同業他社の競争も激しくなる。

当然ながら、それなりのレベルの営業担当がその顧客には付くことになる。

今回の表現で言うなら、1つ目の壁を楽々と超えるレベルの営業マンが付くわけである。

その中で、「成績が上がらない」と相談に来たわけである。

相手を動かすスキル

これは僕なりに表現するなら、「相手を動かすスキルが足りていない」ということになる。

営業の初歩段階では、いかに上手に捕球するかが問われる。

でも次の段階では、相手を落下地点に動かす能力が必要になるのだ。

意味がわからないと思うので、もう少し詳しく書いていく。

ニーズはさておき、お前と話がしたい

相手を動かす能力がハイレベルの営業マンには求められる、というのがここまでの話であった。

では相手を動かす能力というのはどういうものだろうか?

僕が思う回答は「話を聞きたいと思わせられるかどうか」ということになる。

「潜在的なニーズを顕在化させ、それに適切に応える」これはレベル1。

レベル2は、「ニーズ云々はさておき、お前と話がしたい」というものである。

逆転

ハイレベルな顧客(例えばトップマネジメント層)との仕事において重要なことは、ニーズに応えることではない、というのは割とわからない人にはわからないものであると思う。

「営業ってニーズに応えることなのでは?」と思う人はとても多い。

でも、僕が思うのは、ある一定レベル以上になると、主客が逆になる、ということである。

レベル1は主体は顧客、客体は営業マン。

レベル2は主体は営業マン、客体は顧客。

こういうことなのだと思う。

レベル0とは違う

これは勘違いされそうなのでもう少し丁寧に書くと、レベル0も主体は営業マン、客体は顧客なのである。

要は、自分本位のセールスをしてしまうのがレベル0。

そこから相手のニーズを捉えられるようになったらレベル1。

その先(レベル2)はまた主体が自分に戻ってくるのである。

これを僕は「動かす力」と呼ぶことにする。

勝手に来て、待ち構えている状態

レベル0との違いは、相手が勝手に自分の正面に移動してくるということである。

レベル0では無理やり自分の正面に連れてこようとするのだけれど、レベル2になるとスタスタ勝手に来る、そんな感じなのだ。

そして椅子に座り、僕を待ち構えている。

「さあ、話をしようか」というムードで商談が始まる。

これが冒頭の彼の質問に対する僕なりの回答である。

これはマネージャーを目指す上でも大事な能力となると思ったので、その続きを以下に書いていく。

お金と時間をかけてでも会いたい人

あなたにもお金を払ってでも話をしたい人がいるだろう?

憧れの人、尊敬している人、スーパースター、何でもいい。

とにかく時間とお金を割いてでも、会いたい人がいるはずである。

それが相手を動かす(この場合は我々が動かされる対象である)ということの意味である。

レベル0とレベル1とレベル2

多くのマネージャーはこれを勘違いしている。

先程の例で言うなら、レベル0のような状態で部下と話をしてしまっている。

「オレの話を聞け!」というのがレベル0だ。

そこから少し経験が増えていくと、レベル1のマネジメントができるようになる。

部下の話を傾聴し、それに適切に応えられるようになる。

でもそれだけではレベル1なのだ。

レベル2はまた主体が自分に戻ってくる。

「話を聞け!」とこちらから言わなくても、勝手に話を聞きに来る。

アポが自動的に入る。

これがレベル2のマネジメントである。

ジャイアン・リサイタルはNG

繰り返す。

勝手に動いてくるのだ。

これは相手が聞く姿勢になっている状態である。

僕の話を聞きたいという下拵えができた状態である。

ジャイアンのリサイタルに金を払う奴はいないだろう?

でも、ある特定のミュージシャンのライブには金を払ってでも(時には遠征してでも)行くだろう?

それが僕の言いたいことである。

それではまた。

いい仕事をしましょう。


あとがき

マネジメントは部下を動かす仕事であると思っているマネージャーは多いです。

でも、最近思うのは、勝手に動く方がいいよね、という当たり前のことです。

じゃあ、どうやったら部下が勝手に動くようになるのか?

僕なりの1つの回答は、マネージャーへの心酔みたいなものです。

心酔という言葉が強いなら、ファンになってもらう、そんな感じであるような気がしています。

言葉を聞きたいと思ってもらえるようになること。

それは営業でもマネジメントでも一緒です。

価値のある言葉を吐いていきましょう。