「対決」から逃げない

「対決」は突然やってくる

マネジメント業務を行っていると、時としてこの「対決」の場面が訪れる。

「対決」というのは、非常に緊張度が高い1対1の面談をここでは指す。

相手が上司のこともあるし、部下のこともある。

そしてそれは突然にやってくる。

普段の業務の中で積もりに積もった不満や感情がこの「対決」の場面を生む。

それはまるでマグマが地表に噴き出すかのようだ。

瞬間的には相手との感情の高ぶり具合が違うので、咄嗟にこの場面に立ち会うと不意打ちを食らったという印象が強く、そこから逃げ出したくなる。

一旦引いて、体制を立て直したくなる

でも、これはやめた方が良い。

そこで「対決」するしかない。

逃げたい気持ちを堪えて、個室に向かう

内容は色々なことがあるが、多いのは普段から部下が内に秘めている不満を爆発させる、という場面だろうか。

その矛先はマネージャー自身の場合もあるし、その上司の場合もあるし、職場環境の場合もある。

相手からすると、一大決心というような雰囲気で向かってくるので、その迫力に気圧されてしまう。

自然と後ずさりしてしまいそうになる。

でもそこでぐっと堪えて、個室に向かう。

そこでじっくりと話を聞く。

(本論とは少しずれるが、できれば着席の配置は「対面」ではなく、「斜め」にした方が面談は円滑に進むことが多い。これは営業の基本テクニックだ)

無理やり「解決」しようとしない

苦情対応でもそうだけれど、とにかく相手の話を聞くことが重要だ。

たとえそれが取るに足らない内容だと思ったとしても、それは部下にとっては非常に大切な話であるからだ。

部下も感情が高ぶっていることが多いので、的を射ない場合もあるが、そこは横やりを入れないで、ひたすら聞くことに徹する。

一通り話を聞いていると、部下の感情も少し落ち着き、その話の要点が見えてくる。

ここで大事なのは「解決」しようとすることではない

話を聞くこと、共感することだ。

というのは、往々にしてそのような問題は「解決不能」であることが多いからだ(解決ができるようであれば、普段の業務内である程度鎮静化できているはずだ)。

そこから自分のその問題に対する考えを述べる。

相手を説き伏せようとするのではなく(経験の少ないマネージャーは問題が露見することを必要以上に恐れるので、ここでねじ伏せようとしがちだ)、オープンに話をする。

できるだけ腹を見せながら話す。

そこは文字通り人間力の勝負だ。

上司対部下ではなく、人間対人間の地力の勝負だ。

腹を割って話す

相手がマネージャーを普段から信頼しているようであれば、この辺から「対決」ではなく「対話」という雰囲気に面談が変わってくる。

双方が言葉を素直に交換するような、喧嘩した後の仲直りをするような、雰囲気になる。

それはとても建設的な議論だ。

腹を割った話というのは、普段の職場内では殆どできない。

こういう場面を活かして(利用して)、マネージャーも殻を破って、職責から離れて、人として話をする。

そこに権威や虚勢は不要だ。

ただありのままで話をする。

それでうまくいかなければしょうがない、というくらいの覚悟を持って本心を曝け出す。

腹を曝け出し合う、それだけで十分

僕はいつも不思議に思うのだけれど、人間はどんなに鈍感そうに見えても、「本音」と「嘘」を確実に見破る。

自己保身や表面だけの気遣いはここでは不要だ。

余計は遠慮も無用。

とにかく素直になる、これしかない。

そしてまた不思議なことだけれど、「本音」で話した言葉というのは、確実に相手の深奥に届く。

それが納得的ではなかったとしても、心の奥に届いたというその事実だけで、その面談はとても有意義なものになる。

問題は解決しないだろう。

でも少なくとも、その部下とマネージャーの間には、腹を曝け出し合ったという絆が生まれる。

これは本当に大事な行為だ。

何度かこういう「修羅場」に立ち会った僕からすると、こういう場面を潜ることは一つの通過儀礼で、マネージャーがステップアップする為には必要不可欠なものだと思う。

自分の至らなさを実感すると同時に、人間性で勝負できるという自信も生まれる。

何というか、神妙な気持ちになることができる。

上手く言えないけれど、こういう「対話」「上手な喧嘩」ができるようになると、人間関係は、チームマネジメントは、円滑に進むようになる。

上手に喧嘩しよう

ハラスメント志向が強まった結果、こういう風に上手に喧嘩をすることができない人が増えてしまったように最近は強く思う。

それは双方に問題があるのだろう。

マネージャーも上手に話せないし、受け取る側もそれをハラスメントと取ってしまう。

だから双方それぞれに距離を置いて、何となくその場をやり過ごしていく。

チームは表面上上手くいっているように見えるけれど、内実は全然そうじゃない

マグマが溜まり続けている。

これは部下同士の関係性でもそうで、表立って文句を言い合うという場面はめっきり少なくなったように感じる。

みんな喧嘩を嫌がった結果、そこで飲み込んだ不満は地下に潜り、陰で色々な尾ひれを付けて拡散させる。

それが陰湿ないじめになる。

僕はこういう風潮が大嫌いだ。

不満があるのであれば、直接言えばいいと思う。

そういう関係性を向上させようという努力を怠っておきながら、陰で文句ばかり言うのはフェアじゃないと思う。

少なくとも双方血を流してから、マネージャーのところに相談に来い、と僕は思っている。

僕は彼らの父親じゃないし、母親じゃない。

子供っぽい振る舞いには本当にうんざりする。

でもそういう大人ばかりだ。

この「対決」だって、下手をすれば「ハラスメントだ!」と言われて、横腹を刺されるかもしれない。

そういうリスクばかりの中でマネージャーは仕事をしていかなければならない。

それができなければ、チームの低迷も甘受するしかない。

ヘラヘラと笑っているマネージャーになるしかない。

それではまた。

いい仕事をしましょう。


あとがき

「建設的な議論」というのがとても難しい時代だな、とよく感じます。

それは双方の「余裕のなさ」に起因するのかもしれません。

何か言葉を発すれば、それはハラスメントに、批判に、非難に、反逆に、翻訳されてしまいます。

だからみんな何も言わず黙って仕事をするようになる。

心の中にたくさんのマグマを溜めながら、表面上上手くやろうとする。

これではチームが上手くいくはずがありません。

誰しも人と揉めたくはありません。

でもある程度の衝突がないと、人間関係が良化することはありえません。

困難な対話を乗り越えながら仕事をしていきましょう。