指示を咀嚼する

「食べづらい」指示を納得できるような形に持っていくスキル

簡単なようで、なかなかできないのが、この「指示を咀嚼する」という行為だ。

ここで言う咀嚼とは、「自分の言葉に置き換える」ことを指す。

もちろんあなたが所属している組織が、あなたの信念や価値観に近いものであればあるほど、ジレンマは生じにくいだろうし、指示を咀嚼しなければならない回数も少ないだろう。

ただ、どのような組織であれ、組織には組織の行動様式や考え方があるので、多かれ少なかれ意に沿わない仕事をしなければならない局面というのは訪れることになる。

ましてやマネージャーという職務であれば尚更だ。

このように「食べづらい」指示に対して、自分なりの解釈を加えて、何とか納得できるような形に持っていくスキルは、ミドルマネジメントには必須のものだ、と僕は考えている。

今日はそんな話をしていこう。

組織の意向を無視するか全肯定するか

プレーヤーからマネージャーになって変わるのは、自分の行動を自分で決められる裁量が大きく狭まるということだ。

そして管理職である以上、その行動は(大なり小なり)組織の意向を反映したものにならざるを得ない

マネージャーが最初に直面するジレンマだ。

こういった状況に陥った時には選ばれがちなのが、「全く組織の意向を無視する」という選択肢と、「全て組織の意向通りに行動する」という選択肢のどちらかだ。

たぶん多くのマネージャーは無意識のうちにこのような行動を取っているのだろうと思うけれど、僕の目にはある種意識的にその選択肢を選んでいるように見える。

そして圧倒的に後者が多い。

組織に抗うことは百害あって一利なし

それはなぜか?

だんだんと意思が挫かれていくからだと思う。

僕も日々経験していて思うことだけれど、個人レベルで組織と対峙したとしても何の良いこともないし、対峙したところで実際に組織が変わることはない。

そこに抗うことは、百害あって一利なし、だ。

もちろん、「自分は組織と戦っている」というような独りよがりのカタルシスは得られるかもしれない。

でも僕からしたらそれは子供じみたドン・キホーテ的な考え方に過ぎない。

当初希望に燃えて前者のような行動を取っていたマネージャーも、日々の業務によって希望が叶えられないことがだんだんとわかってくる。

本当に小さな仕事を進めるにしても、いちいちつっかえるようになってくる。

結果として成果も上がらなくなる

成果が上がらなければ部下からの信認も得られないし、組織的にもただ「文句ばっかり言っている無能」みたいな烙印を押されてしまう。

これは得策ではない。

組織の意向通りに動いても成果は上がらない。絶対に。

けれど、当実際にはそのようになってしまうのだ。

そして一旦「成果が上がらないマネージャー」という評価になってしまった後は、「なぜ組織の言うことを聞かないんだ?」「言うことを聞かないから成果が上がらないんじゃないか?」という負のループに入っていくことになる。

自分も成果が上がらなくて自信がなくなっているので、仕方なくこの組織の方針を受け入れて仕事をするようになる。

部下にもそのような指示を出す。

組織の規模感にもよると思うけれど、大抵の場合組織の意向というのは現場とのズレがあるので、(今度は)組織の意向通りにやっていても成果は上がらない。

そうすると、「やり方が悪いんじゃないか?」「他ではこんな風に成果が上がっているぞ?」みたいな更なるプレッシャーがかけられるようになる。

こうやってイエスマンが誕生する

もう意識せずとも組織の意向通りに動けるようになっているはずだ。

その方が軋轢も少ないし、仮に失敗したとしても「組織の指示が悪いからだ」という言い訳ができる。

そうやって自分のプライドを守ることができる。

多くのマネージャーはそれを否定すると思うけれど、僕から見たらそのような行動をしているマネージャーが大半だ。

でもそれでは高い成果を上げることはできない。

絶対に。

臭いを残しつつ、換骨奪胎する

ここで出てくるのが、今回のテーマである「指示を咀嚼する」という行為だ。

組織からのある種の無理難題を自分なりの言葉に置き換えて、まず自分自身を納得させる。

換骨奪胎というか、エッセンスは残しつつ、自分なりの解釈を加えて、無理のない(少ない)ものに変えてしまう。

ただ、そうはいっても組織の意向の「臭い」みたいなものは残しておく。

遠目から見れば組織の意向通りに動いているように見えるような形にしておくことで、余計な詮索や対立を防ぐことができるし、何か突っ込まれた時に、「いやいや、その通りやっていますよ」と言い逃れをすることができる。

このバランス感覚がとても重要である。

現場感と大局観のバランス

それは対組織にもそうだし、対部下にもそうだ(もっと言うと対自分にもそうである)。

現場に近づけば近づくほど、本質を外れた仕事というのは敬遠される。

組織の意向をそのままの形で差し出した瞬間、部下からは「現場が分かっていない上司」という烙印を押され、信頼感が失われる。

部下からの信頼がない状態では、どう頑張っても高い成果は上げられない。

かといって、現場ばかりに気を取られると、大局観が失われてしまう。

もう少し高いところから、経営的な流れみたいなものを把握することはミドルマネジメントには不可欠な視点である。

その中間点を探って、自分自身も納得できるような仕事のやり方を探していく。

それができるようになると、「中間管理職は大変だ」という固定観念から(少しだけ)逃れることができる。

それではまた。

いい仕事をしましょう。


あとがき

組織に従順である、ということは必ずしも良いことではありません。

もう少し突っ込んだ言い方をすると、上司が有能であればあるほど、異論を唱える部下(この場合はミドルマネージャー)を重用する可能性は高まるような気がしています。

もちろんただ不満ばかり並べているのは論外ですが、現実に即した話をしながらも組織の意向を叶え、高い成果を出せるマネージャーが疎んじられるはずがありません。

簡単なことではありませんが、そのバランスを如何に保つか。

それがミドルマネージャーにはとても大切です。

組織論的には、耳の痛いことを言ってくる部下を周りにおいておけるかどうか、はその人のマネジメント力を計るバロメーターでもあります。

上司のタイプを見極めながら(そして我が振りを見ながら)仕事をしていきましょう。