指示やアイディアはペーパーに落とす

部下が話を聞いていないのは悪意があるわけではない

「部下は話を聞いていない」というのはマネージャーにとって「あるある」の事象だ。

何度言っても「そんなこと言っていましたっけ?」という反応が返ってくる。

それこそマネージャーになりたての頃は、これは悪意があるんじゃないか、と思っていたけれど、どうやら悪意があるのではなく、ただ単純に聞いていないことが殆どであることがわかってきた。

なぜ部下はマネージャーの話を聞いていないのか?

それはマネージャーの話には価値がないと思っているからだ。

もう少し詳しく言うと、マネージャー以外にもたくさんの指示や命令が降ってくるので、情報量が多すぎるので、大抵の話はテキトーに聞き流さないとやっていられないからだ。

だからこの状態にイライラしてはいけない。

それをデフォルトとして仕事に取り組もう。

聞いてもらえることを期待しないで言い続ける

ではどのようにしてマネージャーの意思を浸透させていくか?

1つの方法として、しつこいくらいに何度も同じことを言う、というのがある。

これは朝会とか会議とか、とにかく人が複数人以上集まる場でひたすら同じことを繰り返すことを指す。

聞いてくれることや、浸透していくことを期待することなく、念仏を唱えるようにただひたすら同じことを言い続ける。

大抵の部下はそんな状況でも話を聞いていないが、中には感度の高い者がいて、その1人か2人には少しずつ響くようになる。

当面はそれで十分だ。

というか、全員に満遍なく同じように浸透するということは夢物語だ、といっても過言ではないと思う。

5年の経験を積んだ今となっても、部下達に自分の言っていることを完全に浸透させるのは不可能だ。

聞いていてもいなくてもまあどっちでもいいや、くらいのカジュアルさでとにかく言い続ける。

これはどちらかというと理念とか、信念とか、心構えとか、そのようなやや抽象的なことが多いような気がする(だからこそ聞き流されているのかもしれないが…)。

これによって部下の行動が変わるなんてことを期待してはいけない。

「ああ、課長はそう考えているのね。はいはい、わかりました」くらいに思ってもらえればそれでよしとする。

自分のアイディアを面白がる

もう1つは今回のテーマでもある、「指示やアイディアをペーパーに落とす」ということだ。

これはどちらかというと部下に浸透させることよりも、自分の考えを整理することに役立つ。

頭の中に浮かんでいる曖昧な概念を、紙に落とすことでその輪郭をはっきりさせる。

書いているうちにその要点が自分でもわかってくる。

そのエッセンスを抽出して、部下に説明する。

ここで大事なのは、「自分で面白がる」ということだ。

独りよがりでも構わない。

自分で自分のアイディアを独創的なものとして、興奮しながらペーパーに落としていく。

論理構成や、「てにおは」のようなものは気にしなくていい。

粗くてもいいから、とにかくその勢いが伝わるような文章を作る。

できればA4一枚にまとめる。

それを部下の前で「プレゼン」する。

大抵の反応はとても薄く冷めているものだけれど、それで構わない。

それでめげてはいけない。

ひたすらこれを繰り返していくことが大事だ。

100%自発的なペーパーを作る

ここで大事なのは、このペーパーが「自発的」なものであることだ。

それを部下達が理解することだ。

1つ目に上げた口頭での指示事項というのは、それが組織からの指示なのか、マネージャー自身の指示なのか、それが不明瞭だ。

というか、自分でもそれを織り交ぜながら話している。

だから、部下はそれを1つの「ノイズ」のように捉えて、聞き流すことになる。

でもこのペーパーに落としたものは100%マネージャーの言葉だ。

マネージャーの本心や、思想のようなものがそこには現れる。

会議の場では斜めに構えている部下も、どこか目につかないところでそのペーパーを読んでいて、それを実践していたりするから面白い。

こんなことがあった。

ずいぶん昔に書いたこのペーパー群を部下がファイリングしていてそれを見せてくれた。

何も響いていない、壁に向かって叫んでいるだけだと思っていたけれど、確実にそれは部下に届いていた。

それは僕にとって望外の喜びだった。

ペーパーに足跡を残す

僕はこんなことをこの5年間繰り返している。

自己満足と言われればその通りだろう。

でもマネージャーが個性を出す方法の1つとしては悪くないものであると思う。

例え僕がいなくなってもそのペーパーは、そのペーパーの上に残された思想は、残り続ける。

それでいいのだと思う。

そのような小さな喜びを心に灯しながら、暗闇を歩いて行く。

嫌なことはたくさんある。

でも時々こういうことがあるからマネージャーはやめられない。

それではまた。

いい仕事をしましょう。

補足

今回の話は、個人的にはメール上で展開しない方が良いと思う。

 1つは、メールはいつ読むかわからない(マネージャーの想いや、空気感が伝わりづらい)。

 もう1つは、どうしても押し付け感が残る、からだ。

 メールは便利なツールではあるが、このような「味付けの濃い」文章が度々飛んでくると、かなりウザがられる可能性が高い。

 アナログではあるが、ペーパーを元に「プレゼン」をしよう。


あとがき

 ペーパーに落とすという作業の利点は、「プロセスが形として見える」ことだと思っています。

 言葉を発するという行為は、何の労力もかからずに行うことができます。

 いわば、プロセス0です。

 しかしながら、ペーパーを作るという行為には労力がかかります。

 その作業工程、プロセスこそが、言葉に重みを与えます。

 「本気度」が付帯していきます。

 適切なバランスを保って、口語と文語を使っていきましょう。