減点主義と加点主義

簡単な結論

マネジメントは加点主義で行うべきだ。

これが今回言いたいことのすべてだ。

これだけで十分であるような気もするが、もう少し詳しく説明する。

能力の低いメンバーを上手に活用するのがマネージャーの仕事

マネジメント業務をやっていると、嫌でも悪いところに目が行く。

部下のどうしようもなさばかりが気になる。

それを1つ1つあげつらって、「ここがダメ」「ここもダメ」とやっていると、極論を言えば何も残らなくなってしまう。

なぜならあなたはマネージャーで、彼らは部下だからだ。

もちろん伸び盛りの部下もその中には混じっているかもしれないが、現在時点で比較するとマネージャーの能力には及ばない。

「オレだったらこうするのに」と思うことばかりが増えていく。

そういう気持ちで仕事をしているので、当然ながら部下も面白くない

結果として、チームの成績は低迷することになる。

そんなさなか、あなたは上司に呼ばれることになる。

「なぜこんなに成績が悪いのか?」

それに対して、あなたはこう答えたくなる。

「あのメンバーでは無理ですよ」

現実問題としてそれは間違っていないが、悪手だ。

大概の場合、この上司の問いの主旨は「ああいう能力の低いメンバーを上手に使うのがお前の仕事ではないのか? それができないということはお前に能力がないのではないか?」ということだからだ。

これは上司側にも問題があるとは思うものの、マネージャーというのは往々にしてこういう状況に立たされるものだ。

そしてトカゲのしっぽ切りのように梯子を外されて無能という烙印を押される。

「相対的」な長所を組み合わせる

こうならない為にはどうすればいいのか?

答えは加点主義だ。

無理やりにでも部下の良い所に着目する。

それを何とか活かせるようにチームを構築する。

これしかない。

良い所といったって、それはあくまでも相対的なもので、マネージャーからみれば取るに足らないくらいの長所だ。

でも比べるべきは「対マネージャー」ではなく「部下間」の総体的な能力差だ。

その長所を組み合わせていく。

どう見たって不格好な代物が出来上がる。

でもそれで勝負するしかない。

戦力差を逆転するからマネージャーの能力が証明される

これは戦略論・戦術論にも繋がってくると思う。

歴史上語り継がれる合戦というのは戦力差があるものばかりだ。

「どうしてそのような戦力差がありながら勝てたのか?」というのが武将の能力の証明になる。

桶狭間のようなことは滅多に起こるものではないが、確率が0でもない。

そもそもそんな戦力差を逆転することを期待されているわけでもない。

善戦できれば十分なのだ。

もちろん十分な騎馬隊がいたり、鉄砲がたくさんあったりすれば、勝つのは簡単だろう。

でもそんなものはマネージャーの能力の証明にはならない。

誰だってそんな状況では勝てるからだ

サッカーでもそうだ。

ジャイアントキリングがあるから、監督の能力が証明されるのだ。

でもそんな逆転劇を起こすためには周到な準備がいる。

その為に必要なことの1つがこの加点主義だ。

期待値を下げて、小さな自信を積み重ねていく

これは期待値のラインを極端に下げることで実現できる。

些細なことで満足できるように、ある種「部下に期待をしない」ようにする。

もちろん実際にはこの低いラインすら下回ってくることも多いのだけれど、それでも何とか良かった点を見つけていく。

表現できるのであれば、それを表現する。

そんなことをただひたすら繰り返していく

経験上、こういった「ダメなチーム」というのは、長年「ダメだ」「ダメだ」と言われ続けているので、ちょっと褒めるだけでもその効果は劇的なものになる。

自己評価も低いことが多いので、少しずつでもいいから自信をつけさせていく。

すると、時々「本当に期待を超えてくる事象」が起こる。

望外という言葉の通り、素晴らしい成果を上げてくることが起こったりする。

こうなってくれば、チームは好循環になってくる。

期待すれば人間は成長する

成果というのは何に勝る薬だ。

それはあらゆる状況を逆転させてくれる。

今まで不満ばかり言っていた上司も、コロッと手のひらを返しだす

燻っていた部下も、マネージャーを信頼するようになる。

チームがだんだんと纏まってくる。

こうなればあとはその速度を維持するだけだ。

巡航速度でひたすら前に進むだけだ。

このような状態に持っていくのが難しいのは承知の上で、僕は加点主義をお勧めしたい。

そこまでの過程で、マネージャー自身が我慢しきれなくなるくらい辛い日々を送らなければならないことも分かったうえで、僕はこれを書いている。

本当に穴を掘ってそこに向かって叫びたくなる日々が続く。

でもその向こうにチームの向上がある。

それを信じよう。

人というのは面白いもので、期待すればそのようになってくれることが本当に起こる。

そこまで辿り着くのは確かに時間がかかる。

でもそこからが本当の意味でマネジメントの面白さがわかってくる頃なのだ。

もしチームが上手くいっていないのであれば、騙されたと思って実践してみて欲しい。

そしてこれを味わってみて欲しい。

それではまた。

いい仕事をしましょう。


あとがき

マネージャーの仕事の本分は成果を出すことです。

でもそれを本当の意味で理解している人は少ないように感じます。

というのは、まだまだ「一生懸命頑張ってみたのですが、ダメでしたー」というような漫然とスタートからゴールに向かうアプローチで取り組んでいる人の方が多いように感じるからです。

厳しいことを言うようですが、「普通にやっていたらそのようなゴールになってしまう」ということをデフォルトとして、「そうならない為にはどのような方法を取ればいいのか」ということを考えることが本来のスタートである、と僕は考えています。

その為にはあらゆることを総動員しなければなりません。

なりふりなんて構っていられません。

今回は加点主義を取り上げましたが、使えるものは全て使う、という貪欲さ、知的柔軟性が不可欠です。

裏技も奇策も奥の手も、何でも使っていきましょう。