管理職になるメリットを絞り出してみる

UnsplashKadarius Seegarsが撮影した写真

想像力の欠如or(and)奇人

管理職になりたくない人が増えているという。

そりゃそうだ、と僕は思う。

これだけ様々な制約(コンプライアンス、ハラスメントetc.)がある世の中において、管理職になりたいなんて思う人は、創造力が欠如しているか、奇人か(もしくはその両方か)、しかあり得ないからだ。

今風に言えば、コスパが悪すぎる。

それが僕が7年以上管理職をやって思うことである。

ただ、そうは言っても、何らかの事情と巡り合わせによって、(不幸にも)僕のように管理職に「なってしまった」人は一定数いるだろうとは思うのだ。

そういう人に向けて、「管理職を経験したら何かメリットがあるだろうか?」という質問を自分で作って、それに答えてみようというのが今回の試みである。

何かの参考になれば幸いである。

それでは始めていこう。

グーグル先生は全能だ

「管理職 メリット」でグーグル先生に聞いてみると、「昇給」「部下に仕事を任せることが可能」「裁量権がある」「会社の重要な情報を知ることができる」という検索結果が出てきた。

これで満足できるだろうか?

というか、これって本当にメリットだろうか?

というのが、僕の率直な感想である。

却下。却下。却下。

1つずつ論破していこう。

「昇給」は確かにするけれど、そこまでじゃないし、それが責任の重さと釣り合っているかを考えると、必ずしもメリットとは言えない、というかデメリットですらあるように感じるくらいである。だから却下。

「部下に仕事を任せることが可能」

これは文章的によくわからない。部下に仕事を任せることができることがメリット?

自尊心をくすぐられるとかそういう意味だろうか?

自分で仕事をしなくてもよくなる(そんなことねえけどな。というかそれがすげーストレスにもなるんだけどな)という意味?

よくわからないので却下。

「裁量権がある」

確かになくはない。でもメリットと言えるほどの裁量権だろうか?

むしろ上司と部下の間に挟まれて、どこまで裁量権があるのかを不明確にされたまま、面倒事だけを押し付けられることはデメリットですらあるのではないか?

いやいや、この対象は「管理職」と言っているけれど、ミドルマネジメントではなくてトップマネジメントのことなのか? それならわかる。

でも、管理職って普通ミドルマネジメントのことを指すのではないか?

何だか上の問いと同じように、自尊心を満足させるという意味合いに聞こえるので、これも却下。

「会社の重要な情報を知ることができる」

これも却下だ。正しくは「会社の重要な情報に見える、本当はそこまで重要ではない情報を知ることができる」である。

さて、管理職になりたくなくなっただろう?

そしてここからが、僕が考える管理職になるメリットである。

人生の困難に立ち向かう為の予防接種

以前ももしかしたら書いたことがあるかもしれないけれど、僕が管理職になってよかったと思うことは、「自分ではどうしようもない出来事に対して、静かに受け入れられる心持ちを養うことができる」というものである。

これは僕の好きな「ニーバーの祈り」にも通じてくる。

ニーバーの祈りとは、「神よ願わくば私に変えることのできない物事を受け入れる落ち着きと、変えることのできる物事を変える勇気と、その違いを常に見分ける知恵とを授けたまえ」というものである。

人間には生きていると様々な困難が訪れる。

それに比べれば、管理職であることの苦しみなど大したことはない。

でも、それはそれで、それなりに大変なものである。

だから、人生の本当の困難に立ち向かうための予防接種的なものとして、管理職になるメリットはある。

それが今回僕が言いたかったことである。

無能な自分と向き合う経験

グーグルが教えてくれるメリットは、資本主義的というか、自分が万事OKな状態であれば、その通りだと思えるような内容であるような気がする。

でも、実際に管理職をやっていると、そんなものでメリットだと思えることはできないような(カバーできないような)、様々な困難が訪れる。

そして、自分の無能さも思い知ることになる。

その時に、裸で荒野に立った自分に、何ができるのか?

それを静かに受け入れながらも、そこから更に一歩前に足を踏み出すことができるのか?

その向き合い。

直面。

それこそが管理職になるメリットであると僕は思う。

まともな人間になる為の訓練と捉えたら?

様々な不完全さ、どうしようもなさ、弱さ、そういったものと何度も直面する中で、それでも自分を信じられるような静かな自信のようなものが涵養できる。

もちろん、管理職じゃなくても、そのようなことは経験できるだろう。

でも、仕事という擬制を通して、そこまでクリティカルなダメージを負うことなく(リアルな生活の中でそのようなことを思う時には、それなりの代償があるはずだから)、疑似的に経験できることは、結構有用なのではないかと僕は思っている。

管理職を経験したからといって、人生が生きやすくなるわけではない。

でも、僕は(自分で言うのも何であるが)少しだけまともな人間になれたような気がするのだ。

昔の自分よりも今の自分の方が、僕は僕にとって信頼できるヤツになった。

それをメリットと言うかどうかは別として、これから来るであろう様々な困難と、そこに少しだけ自信を持った自分がいるであろう未来を想像できるようになったことは、悪くはないのではないか、と僕は思っている。

それではまた。

いい仕事をしましょう。

あとがき

人生修養。

そんなことを掲げたら、本当に真剣にマネジメントに取り組んでいる方に笑われてしまうかもしれません。

でも、僕が思う管理職になるメリットというのはこのようなものです。

上手く言えないのですが、管理職を経験することで、本当に良い人と出会った時の感激度(感謝度)は上がりましたし、日々のささやかな幸福に気付けることが多くなったような気がします。

何だか宗教くさい感じもあるのですが、困難を経験すると(そんなの困難と言えるほどではないのかもしれませんが)、人間は強く優しくなります。

強くなければ生きていけないし、優しくなければ生きている資格はありません(byフィリップ・マーロウ)。

ハードボイルドな世界を生き抜いていきましょう。