感情労働としてのマネジメント
1on1は疲れる
マネジメント=カウンセリング。
このような感覚を持ってマネージャーという役職に就いている人は多いのではないだろうか?
かく言う僕もその1人である。
仕事の大半は部下や職場の人の悩みや愚痴を聞くことに割かれていて、その話は大抵解決不可能なもので、それをずっと繰り返しているとこちらも段々と疲弊してきてしまう。
そのような繰り返しの日々。
結果、バーンアウトしてしまったり、メンタルブレイクしてしまったり。
僕は1on1をマネジメントの手法として推奨しているけれど、これは諸刃の剣みたいなもので、確かにマネジメントは良い方向に進むようにはなるけれど、それなりにマネージャー自身もダメージを負ってしまう手法ではある。
そんな毎日の中で、どのようにしたら健やかに仕事を続けることができるのだろうか?
今日は(自分でも未解決の)そんな話をしてみようと思う。
それでは始めていこう。
話す能力と聞く能力
話すよりも聞ける人。
そういう人がマネジメントには向いている。
そしてこれは「プレイヤーからマネージャーへの転換」と言えなくもない。
プレイヤーはどちらかというと、話す能力によってその評価が決まる。
マネージャーはどちらかというと、聞く能力によってその評価が決まる。
このスイッチ(切り替え)が上手にできる人は、プレイヤーからマネージャーへの接続が上手くいく。
反対に、それが上手くできないと、マネージャーとしては伸び悩むことになる。
聞く=感情を共振させること
では、「聞ける人」になる為にはどうしたらいいのだろうか?
「聞くなんて簡単だぜ!」
「ただ相手の話に合わせていればいいんでしょ?」
そう思った方はまだまだアマチュアである。
「聞く」というのは、それだけではダメなのだ。
自分の感情をも相手と共振させること。
それが「聞ける人」になる為に必須の要素である。
感情労働
では、感情を共振させるとはどういうことを指すのだろうか?
それが今日のテーマである感情労働に繋がってくる。
感情労働とは、A・R・ホックシールド氏が提唱したもので、「相手(ここでは部下)の精神を特別な状態に導く為に、自分の感情を誘発、または抑圧することを職務にする、精神と感情の協調が必要な労働のこと」を指す。
これを僕なりの表現に変えるなら、「その場を良好にする為に、相手の感情に合わせて自らの感情を揺さぶる」のが感情労働である。
そして、これは相手の感情が納得的であるかどうかは関係ないところにその難しさがある。
感情スパイク
当然ながら、自分と同じような感情(の状態)に相手がおり、その状況がこちらも納得的であるなら、その感情に同調するのは難しいことではない。
でも、相手がそうではない時、自分の感情をそこに合わせるのはそれなりのストレスがかかる。
ましてや、それぞれ違う感情を持つ部下に合わせていく(それも毎日)となると、血糖値スパイクのような「感情スパイク(感情の急速な上下動)」が、常時起こっているような状況となる。
そりゃ疲れますよね。
シンパシーとエンパシー
言い方を変えるなら、この「感情の共振」は、シンパシー的なものではなく、エンパシー的なものである、ということである。
シンパシーが無意識的なものであるのに対し、エンパシーは意識的なものである。
であるからして、エンパシーには一段階スイッチを入れるというか、気持ちをそちらに持っていくというか、それなりの「よっこいしょ感」がある。
これがまた疲れるのである。
部下は言いたいことばかり言う
ご承知の通り、部下というのは、本当に言いたいことを言う。
意味がわからないというか、非常に子供っぽいというか、「よくもまあそんなことが言えたもんだ(おまいう的な)」ということが頻発する。
それを無下にするのではなく、一定の理路を認め、それに感情を合わせていく作業を繰り返していき、それなりの着地点に持っていくこと。
これがマネジメントである。
マネジメント=カウンセリング+コンサルティング
そういう意味では、冒頭に申し上げた通り、マネジメントというのはカウンセリングに近いものと言える。
もう少し正確に言うなら、「マネジメント=カウンセリング+コンサルティング」ということなのかもしれない。
相手の感情に共振しながら、でも言うべきことは言い、腹落ちをさせながら、向かいたい方向に向かうよう助言していくこと。
それがどの部下に対してもできるようになると、チームというのは劇的に変わっていく。
もちろん、一朝一夕でできるものではない。
何の変化も感じられないような1on1を繰り返していった先に、それは到達できるものである。
誰かオレにもマネジメントをしてくれ
かく言う僕も穴を掘って叫びたい衝動に駆られる時がある。
クソみたいな話を聞きまくり、たくさんのヘイトを浴び続けると、流石の僕も気が狂いそうになる時がある。
でも、僕のマネジメントをしてくれる人はいない。
そして、たぶん、多くの職場における状況というのがコレなのだろう。
だから仕事がつまらなく感じるのだ。
孤立感。
孤独感。
誰の役に立っているかよくわからない仕事。
それらを全て包摂することはできなくても、それぞれに対して少しだけでも理解を示すことができた時、日本の職場環境はもう少しマシになるような気がしている。
そのようなマネジメントを。
それではまた。
いい仕事をしましょう。
あとがき
「聞く」というのは「相手に合わせる」とは違います。
この辺が難しいところで、ただ相手に合わせているだけでは、相手もすぐにそれに気付いてしまい、「この人は私の話を聞いていない」という状況になってしまいます。
これを一歩進め、自らの感情を揺り動かすところまで行うのが感情労働です。
でも、それを続けていると自我が揺さぶられるような感覚に陥り、更に重度になると、何もかもが馬鹿らしくなってきます(僕は今このような状態です)。
冒頭に「健やかに仕事を続ける為にはどうしたらいいか」ということを書きましたが、僕にもまだその答えは見つかっていません。
ただ、そのような態度の継続が、時折部下からの感謝に繋がることがあります。
それが僕を今の仕事に繋ぎとめている原動力になっています。
大変ですが、部下との対話を続けていきましょう。