「何でも言ってね」では何も言ってこない
悪い話が相談されているか?
新人や若手教育において、「困ったことがあったら何でも言ってね」という言葉を使う人は多いと思う。
ただ、実際に何でも言ってくることはあるだろうか?
その検証をしたことがあるだろうか?
これは何も新人や若手に限ったことではない。
例えば、メンバーに対して「悪いことが発生したらすぐに報告しろ」とか「ホウレンソウはすぐに行え」などと言う時に、実際にすぐに報告がくるだろうか?
良い話は別だ。
良い話は黙っていても向こうから勝手に言ってくるからだ。
大事なのは悪い話が気軽に相談できるような環境であるか。
それがチームのパフォーマンスを左右する。
今日はそんな話をしていく。
冷えている(冷めている)職場
以前にも「心理的安全性」の大切さについてはこのブログ内で書いたけれど(「心理的安全性を醸成する」)、最初の「とっかかり」の部分はなかなか難しいと思う。
例えば、過去からの経緯として、「冷えている職場」では、この心理的安全性を感じるのは難しいことである。
何かやったら糾弾されるとか、ミスを押し付けられるとか、結局は自分が割を食うだけだとか、何でも報告しろと言われて実際に報告したら怒られたとか、心理的安全性を阻害する要因がある(あった)職場を「冷えている職場」とここでは表現する。
これはメンバー同士の仲が良いとか悪いとか、それだけで判断できるものではない(もちろん仲が良い方が冷えていない可能性は高いが)。
一見仲が良さそうであっても、困っているメンバーがいても助けなかったり、新しいことをやることが馬鹿らしく思えたりすることが多く、心の中が冷めてしまっていることはよくあることだ。
そういう意味では「冷えている職場」というよりは「冷めている職場」という方が適切なのかもしれない。
レスポンスを良くすることから始める
想像して欲しい。
その「冷めている職場」にあなたが新任マネージャーとして着任したとする。
そして明らかにその雰囲気がチームのパフォーマンスに悪影響を与えていると判断したとする。
さて、何から始めますか?
僕の回答は「レスポンスを良くする」である。
もう少し詳しく書いていく。
ファーストレスポンスが大事
組織全体の文化を変えるのは難しい。
チーム全体の雰囲気を変えるのも難しい。
でも、マネージャーと個々のメンバーの関係性を良好にすることはできるはずだ、と僕は考えている。
まずはそこから始める。
例えば、「困ったことがあったら何でも言ってね」と実際にある新人に言ったとする。
その新人はどこかのタイミング(たぶんこちらが忙しいなど間の悪いタイミング)で、恐る恐る「困ったこと」について相談にくるはずだ。
そしてその内容は、きっと取るに足らない(もしかしたら下らないと感じられるような)ものであるはずだ。
そのファーストレスポンスを大事にする。
「相談してきた」という事実に感謝を述べる
注意すべきは言葉に現れない部分だ。
言葉上の表現と、言葉に現れない表現が一致しないほど不信感を抱かせる行為はない。
上記の場合であれば、「この忙しいのになんだよ…」という気持ちが顔に出ないようにする。
そして、内容はともかくとして、「相談してきた」という事実に対して感謝をする。
感謝を述べた後、その困っていることに対して実際に援助したり、対処したりする。
これを繰り返す。
メンバーとマネージャーの関係性だけでも良好にする
大事なのは、内容の稚拙さを指摘したり、タイミングの悪さを指摘したりするのは、関係性ができてからにする、ということだ。
意識を「相談してきた」という事実に集中させる。
これをそれぞれのメンバーと個々にやっていく。
もちろん、半分くらいのメンバーはそもそも相談に来なかったり、遠巻きに見ていたりするので、それはそれで放っておく。
取り敢えず、メンバー間に「あのマネージャーに相談されても怒られない」「あのマネージャーに相談すると仕事が上手くいく」というイメージが共有されるような状態まで持っていく。
(もちろん相談を待っているだけではペースが上がらない場合が多いので、1on1など適宜織り込んでいく)
これでメンバー間の関係性はともかく、メンバーとマネージャーの関係性は良好になっていくはずだ。
こちらから鎧を脱ぐ
もう1つテクニック的なことを書いておくと、新人などは忙しそうな上司の様子を伺ってなかなか相談が来なかったりするものだ。
そういう時は、仮に困っていなくても、「手が止まっている」という事実のみを持って、相談に来るように言っておくことが結構重要である。
デスクが近いなら声を掛けても良いし、取り敢えず「手が止まっています」というメールを入れさせるようにしてもいい(直接話すより、メールの方が気が楽だ、という若手は多い)。
マネージャーのキャラクターにもよるが、個人的にはシリアスにならないような感じでこれができるような雰囲気を作っておくことが現在の環境下では大事だと思う。
上司と部下、報告と連絡、みたいな感じではなく、「手が止まっているぞ(笑)」「すいません(笑)よくわかんなくて(笑)」ということが気軽に言えるような関係性を構築することがリスクヘッジにも繋がる。
友達感覚というと語弊があるが、少なくとも親のような立場ではなくて、兄であるとか、親戚のおじさんみたいな感じで接すると上手くいくような気がしている。
要はこちらの「ガードを下げる」「胸襟を開く」ことが相手のガードを下げ、胸襟を開かせるのだ(これについてはまたどこかで詳しく書くつもりだ)。
それではまた。
いい仕事をしましょう。
あとがき
「舐められる」ことは必ずしも悪いことではない、ということを最近感じています。
それは虚勢を張る、ということと裏返しのものであって、余計な装備(鎧・兜・盾)を外してしまうことができれば、フラットな状態で部下とも接することができる、ということです。
僕は「マネージャーたるものかくあるべき」みたいな理想像に囚われ過ぎていたような気がしています。
そして、それと同時にそれを誇示しなくても自分の実力は理解してもらえるものなのだな、ということも感じています。
素の僕はどうしようもないですが、マネージャーの僕はそこそこではあるようです。
恐れずどんどん自己開示をしていきましょう。