ヘドロに手を突っ込む勇気を

UnsplashChris Yangが撮影した写真

地上と地下

マネジメントには地上地下がある。

僕が普段書いているのは、地上の話だ。

というか、殆どのマネジメントに関する話は地上の話である。

テクニックやスキル、様々なアプローチ方法、マネジメントに対する心構え、注意しなければならない事項、など、僕が普段から書いていることはマネージャーとして仕事をする上で、身に付けなければならない、大事な事項である。

でも、それだけでは、どうやっても改善できない領域がある。

どんなに頑張っても、手を尽くしても、届かない場所がある。

それが地下だ。

そして、地下にはヘドロが溜まっている。

誰だって手を突っ込みたくはない。

でも、それをやらなければチームが改善しない場合はある。

今日はそんな話だ。

地下はトップマネジメントの領域

まず前提として、我々ミドルマネージャーの仕事の大半は地上の話であって、地下の話はトップマネジメントの領域であることを先に言っておく。

もちろんこの辺の棲み分けは、会社によって異なるものなのかもしれない。

でも、多くの「ミドル」と呼ばれる人たちは、この地下の話に直接手を入れられないことが多いし(それだけの権限がないから)、むしろ手を入れるべきではないとも僕は思っている。

ではどうやってここに関与するのか?

「トップマネジメントを動かして、間接的に関与する」というのが僕の回答である。

地上での戦いには限界がある

先述したように、僕たちミドルマネージャーの主戦場は地上である。

そこでは様々な問題が日々巻き起こっている。

それに対処するだけでも本当に大変なことだ。

でも、8年近くマネージャーを続けていて思うのは、地上でどんなに奮闘したとしても、改善しない領域が存在する、ということである。

「これ以上手を尽くせない」「最善を尽くした」という感覚。

僕はある程度の経験を重ねた時に、そう思うようになった。

もちろん僕より素晴らしいマネージャーはたくさん存在するだろうし、そういう人であれば、このチームをより高いレベルまで引き上げることができるのかもしれないけれど、大抵の人はこれが限界だろうと思えるくらいのマネジメントはできるようになった。

そして、その先は僕の仕事の範疇ではない、というか。

これはある種の諦めに聞こえるかもしれない。

ベストを尽くしても叶わないことはある。

それが今日のテーマである地下の話だ。

アリの巣コロリ

会社やチームには様々な問題がある。

そしてそこには大抵モンスターが関わっている。

もちろんマネージャーとして、そのモンスター達とも日々戦うし、どちらかというと勝利が続いているような気はしている。

でも、地上には地下に通ずる大きな穴が開いていて、折角モンスターを撃退しても、そこからまた違うモンスターがどんどん湧いてくる、そんな無力感を覚えることがあるのだ。

アリの巣コロリ、ではないけれど、目の前のアリを潰したところで、巣を壊さなければどうしようもないというか。

でも、目の前のアリはアリでそれなりの損害をもたらすので対処しなければならないし、それだけで手一杯というか。

そのような日々が限界を迎えた時、地下に手を入れることが必要になってくるのだ。

そこから先は「経営の話」

普段は見ないでおきたい。

包み隠しておきたいヘドロ。

そこに手を突っ込まなければ、事態が改善しないというくらい追い込まれた状況。

土をかけても腐臭が漏れてくる、その臭いに耐え切れない時に、地下に手を入れるのだ。

そしてそれは先述したように、トップマネジメントに働きかけることから始める。

モンスターから受けた被害状況、それに応戦し負傷したメンバー達の証言、残存する弾薬の数、その他諸々をエビデンスとしてトップマネジメントに提示する。

そこから先は、「経営の話」だ。

「こちらはこちらで最善を尽くした。あとはあなたがどう判断するかだ。そしてその判断が納得できるものであろうがなかろうが、こちらとしてはそれに従うしかない」

やや冷たい響きに聞こえるかもしれないけれど、僕はそう思っている。

トップマネジメントの仕事というのは、そういうものだからだ。

そして残念なことに、この種の冷酷な判断ができるトップマネジメントというのはだいぶ減ってしまったような気がしている。

「みんな仲良くしようよ」みたいな、平和ボケめいた話を、「判断」と僕は呼ばない。

でも、大体のトップマネジメントはヒヨって、こういうことでお茶を濁しがちだ。

それならそれで構わない。

こちらもそれなりの仕事をやるだけだ。

限界はあるぜ?

僕がミドルマネージャー達に言いたいのは、「あなたにはできることとできないことがあって、できることの中であなたは最善を尽くしたので、それ以上責任を感じる必要はないのだ」というある種の慰めである。

「チームに生じているあらゆる問題に対処したい」

その気持ちはよくわかる。

でも、それには限界があるし、その限界を超えたところはあなたの仕事の範疇ではない。

だから、それに対して責任を感じたり、自分を責めたりする必要はない。

もちろん、勇気は必要だ。

時にはトップマネジメントを無視してでも、ヘドロに手を突っ込まなければならない局面はある。

ただ、それで返り血を浴びたとしても、それはあなたが悪いわけではない。

それが僕が今回言いたかったことだ。

それではまた。

いい仕事をしましょう。

あとがき

今日みたいな話を書くと、「トップマネジメントまでも指向してやるのが、ミドルマネージャーのあるべき姿だ」と言い出す輩が出てきます。

「ま、そりゃそうだろ」というのが僕の答えです。

そして、今日の話は「その先」というか。

ニュアンスが難しいのですが、セクショナリズムにならないようにある程度業務範囲を超えてカバーし合うのは職業人として当然ですが、一方でその限界もあるよね、ということが(体感として)わかっていない人が多くて、というか、わかっていても都合よく利用している人が多くて、「それって職務放棄じゃね?」「じゃあその席代われよ?」と思うことが僕にはよくあります。

ミドルはミドルの仕事だけやってりゃいい。

もちろん、そんなことはない。

そんな低いレベルで物事を語っている訳ではない。

でも、限界はあるぜ?

そのような微細なニュアンスを嗅ぎ取って頂けたら幸いです。